第九部第一章 星の大海にてその三
「連合は今どうしているか」
アッディーンと妹マルヤムとの婚姻の約束を済ませたシャイターンは自身の宮殿に戻りそこで末弟アブーに問うていた。アブーは兄に一礼してから報告した。
「ガンタース要塞群にて集結した後はこれといって動きはありません」
「そうか」
彼は弟からの報告を聞いて頷いた。
「思ったより動きが遅いな。そろそろ動いてもいい頃だが」
「彼等にも考えがあるのでしょう」
「御前もそう思うか」
「はい。連合の国防長官八条義統ですが」
兄に対し話しはじめる。
「かなりの切れ者です。やはりここは何か考えがあってのことと思われます」
「それは御前の考えか」
しかしシャイターンはここで彼にそう問うてきた。
「といいますと」
「それは御前の考えかと聞いたのだが。聞こえなかったか」
「いえ」
アブーは兄の言葉に首を横に振った。
「これは私の考えです。如何でしょうか」
「ふむ。いいと思う」
兄は弟に対してそう述べた。
「かなりわかってきているな」
「有難うございます」
「御前を側に置いている介があるというものだ」
シャイターンはそう弟に語った。
「近いうちに御前には先陣を務めてもらうことになる」
「はい」
「攻撃目標はわかっているな」
「無論です」
彼は答えた。
「その大任、見事に果たして御覧に入れましょう」
「頼むぞ。そして」
シャイターンはさらに言う。
「このサハラを我がシャイターン家の手中に収めるのだ。私は頭脳となりフラームは心となる」
「そして私は剣となる」
「そういうことだ。全ては我等がものだ。よいな」
「ハッ」
アブーは兄に対して敬礼して答えた。
「そして姉上は」
「マルヤムか」
「はい」
「そうだな、あれは」
シャイターンは考える目をしながら言葉を出す。
「国母になるか」
「国母に」
「そうだ。国母にだ」
弟に対してそう語る。
「どちらにしろサハラはシャイターン家のものだ。よいな」
「はい」
アブーは兄の言葉を最後まで理解できなかった。しかし兄が何かを考えていることはよくわかった。運命の輪は常に回っている。それはこのサハラにおいてもそうであった。
連合とエウロパが戦争状態に入ったことは当然ながらマウリアにも伝わっていた。マウリアは連合と同盟関係にあるが彼等はこの戦争に関して中立を宣言していた。
これには理由があった。マウリアは連合と国境を接してはおらず遠く離れていた。そしてかってイギリスに支配された歴史があるとはいえエウロパとはこれといって交流がなかった。その為彼等はエウロパに宣戦布告する理由もなかった。また連合も領内に他国の軍を入れることを好まず、また彼等に貸しを作りたくはないという政治的な配慮から彼等に協力を要請することもなかった。こうして彼等はこの戦争とはほぼ無関係であった。だが完全に無関係とはいかないのが政治というものであった。
「観戦武官の選定はどうなっている」
クリシュナータは官邸の一室でラーンチにそう問うていた。彼等もこの戦争に関して全くの傍観者でいることはなかった。むしろ深い関心を持っていたのである。
「はっ」
ラーンチはそれに答えた。
「既に選定は終えております」
「そうか。ならいい」
クリシュナータはそれを聞いて満足そうに頷いた。
「それではすぐに送ってくれ。よいな」
「わかりました」
「彼等がどう戦うかだな、この戦いは」
「はい。おそらく彼等はその物量でもって戦うでしょうが」
「それだけではないだろうな」
クリシュナータは言った。
「彼等の艦艇を見る限り独特の戦い方を意識している。それはあの海賊との時でもそうだった」
「はい」
解放軍との戦いである。クリシュナータはあの戦いの後すぐに国防省に指示して資料を集めさせ研究を命じた。その結果多くのことがわかったのである。
「連携が上手い。だがそれだけではない」
「はい」
「装備もいい。とりわけあの戦艦がな」
「ティアマト級ですか」
「そうだ。あの戦艦は間違いなくあの軍の要だ」
その目の光が鋭くなっていく。
「連携にしろあの艦に秘密があるな」
「はい。あの艦の電子設備はかなりのもののようです」
ラーンチは彼にそう説明した。
「それだけに艦隊の旗艦ともなっているのでしょう」
「あの戦艦に観戦武官達を乗り込ませたいが」
「それは既に手配済みです」
「そうか、ならいい」
クリシュナータはそれを聞いて満足したように頷いた。
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