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第九部第一章 星の大海にてその二
「ニーベルング要塞群は既にかなりの緊張状態に入っております」
 プロコフィエフが作戦会議においてモンサルヴァートにそう報告していた。ここには彼だけでなくそのスタッフや艦隊司令達も集まっていた。
「そして連合の動きは」 
 モンサルヴァートは会議室の円卓において立体地図を指し示しながら立って説明するプロコフィエフに問うた。その顔も目も完全に戦場にあるものとなっていた。
「まだ何もありません」
 彼女はそれに対してそう答えた。
「ただガンタース要塞群に二千個以上の艦隊が駐留しております」
「そうか」
 彼はそれを受けて頷いた。
「それではニーベルングから攻め込んでくるのは間違いないな」
「はい」
「本部長」
 ここでゴドゥノフが口を開いた。
「他から攻めてくる可能性も考えておられたのですか」
「うむ」
 彼はそれに対して頷いて肯定した。
「道は何もニーベルングだけではない」
「といいますと」
「サハラもある。私はそれを考えていたのだが」
「あっ」
 彼はここで気がついた。連合とハサンは同盟関係なのである。そしてティムールとも同盟を結んでいたのだ。これが何を意味するかわからない者はいなかった。
「あのルートも有り得ると思ったのだがな。どうやらそれはないらしい」
「それはまずシャイターン主席が許さないでしょう」
 プロコフィエフがそれに答えた。
「ほう、何故だ」
「狩人は自らの獲物を他の者に渡したりはしません」
 彼女はモンサルヴァートの問いにそう答えた。その声はやはり落ち着いたものであった。
「おそらくティムールは総督府を狙っているでしょう」
「うむ」
「サハラ北方を解放したことによる功績を今後に利用する腹づもりだと思われます。そしてあの地の多くのものをその手に入れるつもりかと」
「それは全て自分の手で為さなければならない」
「はい。彼にとってはそうでなければなりません」
「それは何故でしょうか」
 ジャークスが彼女に問うた。ジャースク達かってアッディーンの下にいた艦隊司令達は皆上級大将に昇進していた。じきに戦時処置として元帥に任じられる予定である。だが今は上級大将であるので元帥であるプロコフィエフに対してそうした口調なのである。
「これはあくまで私の推測ですが」
 彼女はそう断ったうえで話しはじめた。
「彼は今後サハラにおいて大きな勢力を持つことを望んでおります。少なくとも今の北方の一部だけでは満足してはいないでしょう」
「ふむ」
「そしてその為には今の総督府を手に入れることが必要なのです。今のティムールでは限界があります」
「確かにな」
 モンサルヴァートはそれを聞いて頷いた。
「今サハラには三つの勢力が存在する。ハサンにオムダーマン、そしてティムールだ」
「はい」
「その中でティムールは最も勢力が小さい。これは動かせない事実だ。そしてそれを最もよく認識しているのは他でもない。シャイターン主席本人だ。そう言いたいのだろう」
「その通りです」
 プロコフィエフはモンサルヴァートの言葉に頷いた。
「それを打破する為に最も近いのは総督府を手に入れることです」
「ですがそれは」
 アローニカが入ってきた。
「我が総督府軍全軍を相手にするということですね。ティムールの国力では無理があるでしょう」
「今の時点ではな」
 モンサルヴァートはアローニカに対してまずそう前置きした。
「だがこれからはわからない。今の戦いの戦局次第では」
「戦局が危うくなった場合総督府軍を本土に向かわせなければならない場合も考えられます」
 プロコフィエフも言った。
「そうなった場合彼はすぐに動くと思われます。現にティムール軍は何時でも出撃できる態勢に入っているという報告が入っております」
「何と」
 これにはモンサルヴァートも驚いた。
「もうか」
「はい。やはり連合との同盟はそれが狙いであったと思われます」
 プロコフィエフはそれに答えた。
「彼は総督府に狙いを定めているのは間違いありません。そして総督府を解放したことにより」
「彼の名声は否が応にも高まるな」
「そうなるでしょう。彼が得る物はサハラにおいて限り無く大きいものとなります」
「そしてサハラでの英雄となるか。彼にとって悪いことは何一つない」
 ターフェルが言う。
「しかし我々を手をこまねているわけにはいかない」
 モンサルヴァートがここでこう述べた。
「参謀総長」
「はい」
 プロコフィエフは答えた。
「総督府も既に戦闘態勢に入っている。すぐに彼等にも知らせてくれ」
「わかりました」
「だがいざという時には・・・・・・わかるな」
「無論です。致し方ありません、その時は」
「うむ。だが市民は保護しなければならないぞ」
「わかっております」
 彼女は答えた。その顔は何時になく暗いものがさしていた。しかしモンサルヴァートはそれに気付きながらあえて気付かないふりをした。これも考えあってのことであった。
「それで連合軍だが」
「はい」
 一同話を変えた彼に顔を向けた。
「近いうちにニーベルング要塞群に攻撃を仕掛けてくる。おそらく最初から我が軍にとっては総力戦になる」
「でしょうな」
 マトクが言った。
「そうでなくては我等にとって勝利はありません」
「そうだ。今我が軍は五百個艦隊。それに対して連合は二千個艦隊、そこにサハラ義勇軍百個艦隊が加わる」
「計二千百個艦隊。口で言うと一口ですが」
「今までそれだけの規模の軍を動員した例はなかった。人類史上最大規模だ」
「ですね。それを迎え撃たなければなりません。例えどれだけの数であっても」
「うむ。それでは卿等には命を捧げてもらう。オーディン、そしてアテナに」
「はい」
 オーディンはエウロパで崇拝されている戦と嵐の神である。帽子を目深に被った隻眼の老人でありその手には神の槍グングニルがある。常に二羽の烏と二匹の狼を連れており魔術を使う。不和と争いを好み戦場で活躍する戦士達に加護を与える。だがそれは気紛れであり戦士達は何時彼の加護を失い命を落とすかわからないのである。戦場で命を落とした戦士達は彼の館に招かれる。そしてそこで最後の戦いに備えて腕を磨くのである。
 アテナもやはりエウロパで信仰されている神である。知恵と戦いの女神であり長身を鎧兜と楯、そして剣や槍で武装している。天空と雷の神ゼウスの長女であり気高く、それでいて慈悲深い心を持っている。戦いにおいては攻めるよりも守るのを得意としている。エウロパにおいてとりわけ人気のある女神でもある。
 本来オーディンとアテナは違う神話系列の神でありここでモンサルヴァートが同時に出したのは理由があった。それはエウロパの者はそれぞれの神を信仰しているからである。ここにいる者ではモンサルヴァートはオーディンを信仰している。プロコフィエフはアテナを信仰しているのである。またその他にカトリックとプロテスタントの区分もある。エウロパの信仰もかなり複雑であった。
「無論私もだ。それでは行こう、戦場に」
 彼はそう言うと立ち上がった。他の者もそれに続く。
「ヴァルハラ、そして神々の宮殿で会おう。我が軍に勝利を!」
「我が軍に勝利を!」
 皆一斉に敬礼した。こうして彼等も戦場に向かうのであった。
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