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第三十二部第四章 北へ行く中でその二十七
「私もな」
「戦争は恐れてはおられませんね」
「戦争は避けたいが起こるものでもある」
 言葉には達観もあった。
「そしてそれは悪ではない」
「そうです。だからこそ今は」
「自重か」
「休まれ、そして栄養を充分に採られ」
「わかっている。それではな」
「はい。もうすぐです」
 話が一段落したところでまた言ってきた侍従だった。
「東宮に戻られるのも」
「東宮か。どうも最近は」
「どうされましたか」
「毎日東宮と他の場所を行き来しているな」
「はい、確かに」
「忙しいのは確かだ」
「やはりそれは仕方ないかと」
 侍従はそれは仕方ないと言う。
「やはり今は」
「戦争中だからな」
「その通りです。では」
「うむ」
 また侍従の言葉に頷いた。
「ではまず休み栄養を採り」
「はい」
「また政務に当たろう。ホットラインだが」
「どちらまでのですか?」
「アヤグーズまでだ」
 そちらへのホットラインであった。
「二つ用意しておいてくれ」
「二つですか」
「一つはバンダル将軍へだ」
 アヤグーズに派遣されているハサン軍の最高責任者である。太子にとっては頼りになる軍人の一人でもある。それは能力と人格によるものだ。
「まずは彼と話をしたい」
「わかりました。ではそちらの用意をしておきます」
「頼むぞ。そしてもう一つは」
「どなたにですか?」
「女王にだ」
 一言であった。
「ブルコルジ女王とだ。話をしたい」
「女王陛下とですか」
「是非だ」
 言葉が強くなる。
「是非共話をしたい。ここでな」
「わかりました。ではそちらも」
「女王は今元気だったな」
「はい」
 侍従はしっかりとした声で太子に応えたのだった。
「コムでの敗戦に対しても気落ちされていません」
「そうか。ならいい」
「あれは我々、そしてアヤグーズにとっては思わぬ敗戦でした」
「それは私にとってもだ」
 太子も言った。
「あの戦いはな。勝利を確信していた」
「ええ」
 これについては彼等だけではなかった。ハサンの者達だけでなく連合やマウリア、そしてエウロパの者達もアヤグーズ、ハサン連合軍の勝利を確信していた。しかし残念ながらそうはならず連合軍は敗れたのである。そして今に至っているのだ。アッサルームの決戦に。
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