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第三十二部第四章 北へ行く中でその十七
「今我々はだ」
「はい」
「サハラ東方を掌握してからかなり経ったな」
「はい、既に」
「七百年でしょうか」
 こう彼等に話すのだった。
「思えば長い歴史です」
「この東方を掌握してから」
「それからは大きな戦いはあまりありませんでした」
「そうだ」
 戦乱の続くサハラにおいて唯一平穏だったのが東方なのだ。全ての地域が戦乱に覆われていたわけではないのだ。それでもハサンも断続的に戦争を行ってきているが。
「ですから今も彼等を退ければいいでしょう」
「後はどうでもいいかと」
「統一意見としては現状維持になるな」
「はい」
「それです」
 参謀本部の結論はこれであった。
「それでいいかと」
「別に動く必要はありません」
「我等はこのままで」
 またこのことを話していく。
「見ていればいいのです」
「彼等を退けたならば」
「オムダーマンとティムール」
 太子はこの今争っている二つの国の名前をまた出す。
「そして我々だが」
「そういえば連合では」
「連合では?」
「今三国のうちの何処が統一するか話題になっているようです」
「このサハラをだな」
「どうやら我々のことを知らないようです」
 こう言って一笑に伏す参謀達だった。
「我々はその様なことを望んでいないというのに」
「全くです」
「少なくとも我々は、ですが」
 ハサンは、というのだった。
「統一しても何になるのか」
「我等にとってもメリットはないというのに」
「メリットか」
 太子は今度は誰にも聞こえないように呟いた。
「メリットはあるがな。しかしそれは現状維持ではない」
「では殿下」
「そういうことで」
 やはり太子の言葉は聞こえてはいなかった。彼等は穏やかな笑みを浮かべて彼に対して言うのだった。やはりその声は何もわかっていない声であった。
「宜しく御願いします」
「御決断を」
「うむ」
 太子はあらためて彼等の言葉に頷いた。
「ではオムダーマン及びティムールを退けたならば」
「はい」
「そのままとする」
 参謀本部だけでなく内閣や議会の決定でもあった。だから反対できなかったのだ。
「それでいいな」
「はい。それでは」
「宜しく御願いします」
「わかった。それではな」
「はい」
 こうしてオムダーマンの先の先の方針も決定された。これはオムダーマン、ティムールにとっては鬼が笑う話だった。しかし太子はそこに違うものを見ていた。
「これが限界か」
 こう言うのだった。一人になってから。
「ハサンの。人材の」
 彼は統一の意見が出るのを待っていた。しかしそれがなかった。そのことに内心かなり失望しつつ今東宮に戻っていた。
「これでは。やはり私が」
 呟き続ける。
「これまで以上に権限を強化し主導していくしかないのか」
「?殿下」
 だがそれを隣に座す侍従の一人が聞いていた。
「何か仰いましたか」
「むっ!?いや」
 だがあまりよくは聞こえなかったようだ。要領を得ないその返事に彼は己の言葉を誤魔化すことにしたのだった。己の考えを隠す為に。
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