第三十二部第四章 北へ行く中でその七
「オムダーマンのみだったとする」
「はい」
「そうなればどうなるか」
「ハサンはその国力を全て我々に向けてきたでしょう」
これはすぐにわかる現実だった。
「間違いなく」
「そうだ。確実にそうしてきた」
敵が一つならば向ける力も一つになる。力学においても容易に言うことができる定理であった。戦争における絶対の定理である。
「そしてティムールにもだ」
「ティムールにもですか」
「同じだ。敵が一つならばな」
「そうですね。一つだったならば」
「しかしだ」
話が現実に引き戻される。
「彼等にとって残念だが敵は二つだ」
「我々とティムール」
「その方向も二つだ」
方位の問題もあった。
「どちらにも向けなければならない」
「だからこそ厄介なのですね」
「しかもハサンは人材が減っている」
ソフトウェアについても述べられる。
「それに適応できる人材も限られたものだ」
「だからこそ余計に混乱すると」
「前線はいい」
個々の前線についてはそれでよしとされた。
「しかしだ。首脳部はどうかというと」
「そういえばそのハサン首脳部ですが」
彼等に対する情報も出された。
「太子に権限を集中させています」
「これまで以上にか」
「はい、これまで以上にです」
元々ハサンの実権は太子が多くのものを持っていた。だがそれはこれまで以上のものになっているというのだ。非常時故だからであろう。
「まさに独裁者という域にまで」
「独裁者か」
「実際に非常大権まで与えられています」
これもまた実に大きなことであった。
「ですから。あの国は」
「頭に全てがかっているな」6
アッディーンも言った。
「やはり」
「では頭を潰せばそれで終わりですね」
「!?それでは」
アッディーンの後ろに控えていた別の参謀がここで気付いた。
「閣下、いい考えがあります」
「暗殺か」
「はい」
彼が言うのはそれだった。
「確かに常道ではありませんが。如何でしょうか」
「できるのならな」
こう返すアッディーンだった。彼の方に顔を向けることすらしない。
「するべきだがな」
「不可能だと仰いますか」
「私もそれは考えた」
アッディーンも考えたことを今告白した。
「しかしだ」
「それは無理でしたか」
「到底な。敵もさるものだ」
彼はまた言った。
「周りの警護は厳重だ。首都自体が警護に当たっていると言っても過言ではない」
「そういうことですか」
「諜報部員を潜入させるだけで手が一杯だった」
「そういえばあそこにはハルヴィシー少将が直率の部下達と共に潜入していました」
「その彼等でもだ」
アッディーンの言葉はオムダーマン最高の諜報員の名前が出ても変わらなかった。
「やはり。無理だ」
「そうですか。やはり」
「だからだ。このことは却下だ」
「わかりました」
「そういうことだ」
これでこの話を終わらせた。
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