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第三十二部第三章 伝わる動きその三
「我が国の歴史は五千年ですがな」
「それもあまり見られていないようですな」
「ええ、その通りです」
 マックリーフの言葉に応える。
「全く以って。三千年の皇室ですか」
「皇帝、いや天皇でしたな」
 マックリーフはあえて天皇と呼びなおした。
「この連合でたった二人だけの帝です」
「帝ですか」
 グリーニスキーはその存在そもそもが好きではないようである。
「かつては我がロシアにも皇帝が存在していましたが」
「我が国にもです」
「全く。レーニンも余計なことをしました」
 忌々しげに言うグリーニスキーだった。
「いや、あれはケレンスキーだったでしょうか。どちらにしろ帝政だったならば」
「日本と同格でしたな」
「その通りです」
「我が国はこのことに誇りを持っていますぞ」
 李は誇りと言うが顔は不機嫌そのものにさせたままだ。
「古代からの忌まわしい因習から我々を解放してくれた偉大なる国父孫文の行動を」
「辛亥革命ですか」
「そうです」
 この革命で清王朝は倒れている。この時に中国は皇帝という存在を否定したのだ。この時の中国はあらゆることは行き詰まり西洋諸国の侵略を受けそれを打破しようとしていた。その一貫として皇帝という存在を否定したのだ。この時以降中国に皇帝は存在していない。
「素晴らしいではありませんか。世襲の権力委譲を終わらせたのです」
「確かに」
「我が国もです」
 今度言ったのはマックリーフであった。
「ジョージ=ワシントンはそれを否定しました。それにより」
「大統領制となったのでしたな」
「ミスター=プレジデント」
 大統領の英語、この時代のアメリカ語での大統領の呼び名だ。連合では銀河語が公用語であり第二言語として各国の言語が使われているのだ。アメリカ語もそれだ。
「私もまたその一人ですが」
「大統領としてですか」
「はい、ですから我が国では王は存在しないのです」
「皇帝はそれ以上にですな」
「その通りです」
 アメリカもこれは同じなのであった。
「我が国には君主は存在しません。存在しているのは国父と歴代の大統領です」
「同じですな、全く」
「我々は」
「誇りです」
 彼等の言葉は強がりめいた言葉になっていた。
「世襲の権力を否定して」
「それこそが誇りです」
「しかし。天皇ですか」
「連合で二人だけの皇帝」
 どうしてもこのことが引っ掛かるのだった。皇帝という存在が。
「席次では第一ですな」
「ですな。王の上です」
「我々よりも」
 皇帝は各国の国家元首の席次や儀礼においては常に第一とされている。日本の天皇とエチオピア皇帝ではその順番は即位順になりこれはそれぞれの国家元首間でも同じだ。就任している歳月がその順位になる。だからアメリカ大統領も就任してすぐならば席次は一番下になるのだ。席次や儀礼はこうした時に実にシビアだ。
 皇帝の次が王となりそして大統領や主席、次いで首相、それから各国の閣僚になる。儀礼の待遇は各国でこう分けられている。ここでも皇帝が一番上になるのであった。
「こればかりはどう逆立ちしても勝てませんな」
「王には」
 大統領は王には勝てない、連合での諺ににもなっている。
「日本人は新しいものが何よりも好きですが」
「こうした古い存在も同時にあるので」
「全く。おかしな話ですな」
 三人は不機嫌な顔でそれぞれの席に座っている。その彼等は各国のジャーナリスト達からも見られている。ジャーナリスト達もまたおかしそうに笑っている。
「あの三国はいつもだな」
「ああ、全くだ」
「皇帝や王という存在を前にしたらな」
「いつもだよな」
「そうだよな」
 そうなのだった。大統領である彼等はどうしても王や皇帝にはなれない。連合では階級は否定していてもこうした儀礼においては五月蝿い部分もあるのだ。
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