第八部第五章 宣戦布告その一
宣戦布告
連合とエウロパの戦いが最早避けられぬものであることは誰の目にも明らかであった。双方は互いに矛を磨き戦いの準備を整えていた。
だがまだ正式に戦いになると決まったわけではなかった。それには手続きが必要であった。
「中央議会では明日審議にかけられるそうですね」
「はい」
八条にバールが答えた。彼等は今会議室で作戦会議を行っていた。エウロパ侵攻計画の最終的な確認の作戦会議である。
「可決は確実かと」
「そうでしょうね」
彼はバールの言葉に頷いた。そして言った。
「反対意見はほぼないようですし。全会一致に近い形で可決されるでしょうね」
「そうでしょうね。上下両院だけでなく各国の首脳達も同じ意見のようですし」
「はい」
八条はそれに頷いた。連合は上下両院だけでなくその上に各国の首脳会議まで設けられているのだ。実質的には三院制である。これは各国の利害も調整する為だ。参加刻々のそれぞれの力及び発言力の強い連合ならではの制度であった。
連合は人口が多いだけあってその議員の数も多い。下院は二千人である。上院は一千人。彼等の過半数、若しくは三分の二の賛成を以って可決するという制度である。
それから大統領の裁断が行われる。一度は拒否できるが二度目で三分の二以上の賛成があればそれは拒否できないことと定められている。連合は議会と大統領の行政府を明確に区分しているのである。
それは当然ながら八条も知っている。それを踏まえたうえで言った。
「大統領は今回の戦いについて賛成です」
「はい」
バールはその言葉に頷いた。
「では後はサインするだけですね」
「ははは、それはまだですよ」
「おっと、そうでした」
バールはそう答えて謝罪した。
「これは申し訳ありません」
「いえいえ」
八条はそれを手で宥めた。そして本題に入ることにした。
「エウロパの侵攻計画についてですが」
「はい」
バールだけでなく今回の作戦に関わる全ての高官達がそこに集まっていた。彼等は円卓を囲みその中央に映し出されるホノグラフィーの映像を見ながら会議を行っていた。
「まずはニーベルング要塞群を陥落させることからはじまります」
「はい」
一同八条の言葉に頷いた。
「そうでないと何事もはじまりません」
「確かに」
それは最早言わずもがな、であった。
「エウロパはそこに百個艦隊を配置しようとしていると聞いております」
ここでディカプリオが口を開いた。
「百個艦隊」
「はい。それで以って第一の防衛ラインとするようです」
「そうですか」
八条はそれを聞いて頷いた。
「やはりそれが常道ですね」
「はい」
ディカプリオはそれに応えた。
「そして首都オリンポスまで何重にも防衛ラインを張り巡らせております。そのうえオリンポスを中心とした縦深な防衛システムも完成させております」
「すなわち全土が要塞と化しているということですね」
「ええ。ですがこれはもう何度も会議の俎上にあげられていますので今更言うことはないと思ったのですが」
「そういうわけではありませんよ」
だが八条はディカプリオの発言を否定した。
「今は最終的な確認の会議なのですから」
「はい」
「むしろ言って頂かなくてはなりませんでした」
「そうですか」
「はい。ただそれへの対抗策は既に出されています」
「はい」
ここで参謀総長である劉が頭を下げた。彼はそれから発言した。
「ニーベルング要塞群を陥落させた後一気にエウロパの南北及び上下に展開します。それから徐々にオリンポスを目指します」
「はい」
連合の圧倒的な物量を利用した戦略であった。その物量で以ってエウロパ軍を押し潰すつもりなのだ。
「おおまかにはそうなっておりますね」
「はい」
劉は頷いた。
「まずは要塞群の陥落とその周辺星域の速やかな確保が課題でありましたが」
「あれの準備はできていますか」
八条は劉だけでなくマクレーンにも顔を向けた。
「はい」
今度はマクレーンが彼に応えた。
「既に準備は整っております。あらかた集結を終えました」
「それは何より」
八条はそれを受けてまた頷いた。
「ではそちらは開戦と同時に発動しましょう」
「はい」
マクレーンと劉が首を縦に振った。
「それから先遣部隊ですが」
「サハラ義勇軍ですね」
「はい。彼等にまず要塞群の陥落と後続の主力部隊が来るまでの戦域の確保を任せたいですね」
「かなり困難な任務ではありますが」
「ですがやってもらわなくてはなりません。そして本格的な侵攻の折には」
「彼等がその先陣を務める」
「そういうことになります」
八条はそれを認めた。
「彼等は今ガンタース要塞群に集結していましたね」
「はい」
マクレーンがそれに応える。
「戦いがはじまるのを心待ちにしているようです」
「そうですか」
「彼等にとってエウロパは祖国の仇ですから。戦意は否応なしに上がっております」
「ふむ」
「まずは例の作戦の後十個艦隊単位でブラウベルグ回廊を通過します」
ブラウベルグ回廊はかなり広い。十個艦隊単位で円のスペースを確保できる程である。
「そしてニーベルング要塞群を上下左右から攻撃します。それにより陥落させます」
「一気に」
「無論です」
マクレーンの声は強いものであった。
「あの要塞群だけは一気呵成にいきたいところです」
「ただそれからは的確に、ですね」
「はい」
「兵は神速を尊ぶといいますが地の利はあちらにあります」
「それを考えますと的確にいきたいですね」
「はい」
八条はまた頷いた。
「まずはエウロパの南北と上下を押さえまして」
「はい」
「そこからジワリとオリンポスに向かって進む作戦でしたが」
「それで間違いはないと思いますが」
「大筋においては。問題は補給です」
「今のところ計画において不備はありませんが」
「一つ問題があります」
「それは」
「彼等の行動です。焦土戦術を執る可能性があります」
「それですか」
「はい」
八条はあらためて頷いた。
「それに対しては一体どうするかです。我が軍の補給に関しては問題はないでしょう。ですが占領地の市民のことを考えますとそれが問題になります」
「エウロパの市民のことですか」
「そうです。他に何がありますか」
「それは」
皆返答に窮した。何故なら彼等はエウロパの市民のことまで考えてはいなかったからである。占領し、その武装を解除すればそれでよいと考えていたのだ。焦土戦術は何も食糧だけを持って逃げるだけではない。それは古代の戦術である。この時代の焦土戦術は工場や通信、そして電力等も全て破壊して撤退するというものである。その効果はかなり大きなものとなっている。
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