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第三十二部第二章 誘いその二十一
「保守派の方ですが」
「中央政府のだな」
「はい、議会のです」
 また答えるエルザだった。
「議会の方ですが」
「そうか、やはりな」
「あなたに御会いになりたいそうですが」
「私にか」
 それを聞いて再び考える顔になるモンサルヴァートだった。
「私に。そうか」
「そうか?」
「いや、いい」
 しかしここではこれ以上は話さなかった。
「とにかくだ。来られているのだな」
「御会いになられますか?」
「お客人に失礼があってはならない」
 こう答えるモンサルヴァートだった。
「だからだ。会おう」
「御会いになられるのですね」
「ただ。少し時間が欲しい」
「左様ですか」
「お客人は今どうしておられるか」
「待合の間で静かに待っておられます」
 このこともモンサルヴァートに教える。
「夕食も済ませられくつろいでおられます」
「そうか。どちらにしろ待ってもらうわけにはいかない」
 これもまた失礼があってはならないということだった。こうした気配りは貴族の社会においては至極当然のことである。モンサルヴァートはそれ以前に気配りを忘れない男であるが。
「ただ、着替えるまではな」
「わかりました。それでは」
「うん」
 まずは自室に入った。そしてすぐに私服に着替えた。絹の服である。だがそのデザインは決して華美なものではなくドイツ人らしい落ち着いたものであった。
 その服で待合の間に入る。そして客人の前に姿を現わしたのだった。
「お待たせしました」
「これは伯爵」
 モンサルヴァートをその爵位で呼んだ。
「いえ、もう侯爵だったでしょうか」
「まだ正式には授位されてはいません」
 立って言ってきた客人にこう返す。見ればその客人も絹であるが質素なデザインの貴族の服を着ている。その服と金髪碧眼から見てドイツ人であることがわかる。その顔立ちも見ればドイツ人のもので彫が深く鼻が高い。そして哲学者を思わせる思慮深い印象も与えている。
「ですからまだ」
「伯爵で宜しいのですね」
「はい、それで御願いします」
 こう答えるモンサルヴァートであった。
「それでですね」
「ええ」
「確か貴方は」
「はい、エルラッハです」
 己の名を名乗ってきた。
「オットー=フォン=エルラッハです」
「エルラッハさんですか。確か」
 ここでモンサルヴァートは己の記憶の中からその名を探すのだった。すぐに答えが出た。
「中央議会下院院内総務ですね」
「はい、その通りです」
 にこりと笑ってモンサルヴァートに答えてみせた。
「御存知頂き何よりです」
「お久し振りです」
 次にこう返したモンサルヴァートであった。
「何時ぞやの宴の場以来ですね」
「そうでしたね。あの時はお互い楽しませて頂きましたね」
「そうでしたね。あれからもう」
「三年です」
 こうモンサルヴァートに答えてきた。実は前に会ったことのある二人であった。
「長いものですね」
「そうですか。それだけ経っていますか」
「はい」
 静かに微笑んで答えるエルラッハであった。
「もうそれだけです」
「そうでしたか。三年ですか」
「長いものです。それでですね」
「ええ」
「今回はお話があって参りました」
 こう話すエルラッハであった。
「お時間はおありですね」
「ええ、それは」
 あると答えるモンサルヴァートであった。
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