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第三十二部第一章 エウロパの実情その十四
「それは御期待下さい」
「必ずですか」
「そうです。連合になぞ敗れたままではいられません」
「連合ですか」
 侯爵も連合という名前を聞いて顔を顰めさせる。連合が相手となっては流石に彼も不快感を露わにせざるを得なかったのだった。
「私も彼等と戦いました」
「そうだったのですか」
「武器を手に取り。私もまた」
「誰もが果敢に戦った戦争でした」
 これはエウロパ人、とりわけ貴族達の誇りになっていることだった。彼等は強大な相手であっても卑怯未練を卑しみ勇敢に戦うことを誇りとしている。カミュは文官でありまた外相でもあったのでそれでも戦っていたのだ。戦場以外でも戦う場所は存在しているのだ。
「あの戦争は」
「そうです。その誇りがあれば」
「そうです」
 侯爵に応えて述べる。
「我々は必ず復活します。そうして」
「再び繁栄の時を迎えるのですね」
「ですがそれには一つ条件があります」
 彼は言う。
「それが重要なのです。今も」
「条件ですか」
「おわかりだと思います」
 ここでまずはメインディッシュがテーブルの上に運ばれるのだった。それはまずはサラダであった。レタスをメインにしてトマトとオニオンをメインとしていた。
「それに関しましても」
「ええ、それはお任せ下さい」
 侯爵もまたわかったうえで述べるのだった。今グラスには白ワインが注がれている。歌劇場のボーイがそれぞれのグラスに注いでいるのだ。
「それに関しましては」
「どうも有り難うございます」
「友人達にも話しておきましょう」
 コルテーゼ家はフランスの中ではかなりの有力貴族の一つである。その為各界、とりわけ貴族の社交界においては顔が広く影響力も高い。だからこそカミュは今彼等と話をしているのだ。
「それで宜しいですね」
「御願いできますか」
「何、お安い御用です」
 ただの貴公子とは思えない深い笑みを見せての言葉であった。
「この程度のことは」
「有り難うございます」
「ましてや今回はあれでしたな」
 話は総統選にまで及んでいた。ごく自然に。
「イギリス貴族も出るのでしたな」
「はい、例の侯爵殿がです」
「ギルフォード侯爵」
 侯爵は忌々しげに述べた。
「連合も不愉快極まる存在ですがジョンブル達もまた」
「イギリス貴族です」
 カミュもまたそこを強調する。
「私は相手が誰であろうと勝利を収めるつもりですが」
「はい」
「個人的な感情としてイギリス人が一番好ましくない相手です」
 フランス人特有の感情であった。
「彼等が最もです」
「その通りです。彼等にいい目だけは見せたくはありません」
 侯爵もまたそれは同じだった。イギリスとフランスの仲の悪さはこの時代でも健在であった。連合で言うとアメリカとロシア、中国とロシア、日本とロシア、トルコとロシアの様なものである。なおフランスは他にもオーストリアやドイツ、スペイン、オランダといった国々とも国民感情としてはあまり仲がよくはない。どう贔屓目に見てもあまり好かれているとは言えないがそれでもそんなことを気にするフランス人でないのは昔からだ。
「決して」
「食べ物といえばです」
 カミュの笑みがシニカルなものになっていた。
「何かあったでしょうかね。彼等には」
「さて」
 侯爵もまたシニカルに応えるのだった。
「ローストビーフだったでしょうか」
「あれは不思議な食べ物だと私は思います」
 既にサラダを食べ終え今度は鰻のオードブルを食べている。
「イギリス人が作ればこの上なくまずいものになるというのに他の国の人間が作れば実に美味なものになります」
「確かに」
「プティングもです」
 イギリス人の料理の腕前も次々にけなしていく。
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