第三十二部第一章 エウロパの実情その四
「大体あいつ等何だ?」
また一人が述べた。
「所詮あれだろ。野蛮人だろ」
「土人だよな」
「結局はそんな連中だな」
「俺達が文明を授けてやらなかったら」
彼等は大航海時代にしろその後の帝国主事時代にしろこう考えているのだ。未開の者達に文明の光を与えてやったと思っているのである。
「今でも地球で」
「無様にはいくつばっていた」
「それがだ」
変わったというのである。
「俺達を蔑んでな」
「好き放題書くわ言うわ」
「何様だと思っていやがるのか」
「しかもだ」
彼等の怒りというか愚痴というかは続く。
「この前の戦争だってな」
「ああ、嫌味なものだよ」
「あの長官だよな、連中の軍務大臣か?」
「アジア人のあいつだよな」
「そうだよ、あいつだ」
八条のことだ。中央政府国防長官はエウロパでは軍務大臣と考えられているのだ。確かに軍務のトップなのは事実だが国防長官が文民でなければならないという連合式のシビリアンコントロールの中にあることまではよく理解されていないのである。
「あいつ随分嫌味だよな」
「略奪暴行は厳禁ってしたあれかよ」
「そうだよ、それだよ」
連合軍が軍律を徹底させたこともまた彼等にとっては怒りの種の一つになっているのだ。要するに何もかもであるのだが。彼等に自覚はない。
「わざわざあんな達出してな。嫌味か?」
「俺達のか」
「何か兵隊の奴等が言ったそうだぜ」
連合の兵士達の話にもなる。
「俺達は御前達と違って文明人だから略奪とかはしないんだってな」
「あっ!?何だそれ」
最初誰もが今の言葉の意味がわからなかった。
「俺達とは違うってか」
「そうだよ。違うってな」
「ええと、そうだよな」
「だとすると」
今一つ言葉の意味がわからないまま話をするのだった。今連合の兵士達が自分達に対して何と言ったのかどうしても理解できなかったのである。
「つまりだ。俺達がだ」
「略奪とかするっていうのか」
「馬鹿言えよ、おいおい」
早速一人が笑いだした。
「俺達が略奪とかするってか?」
「そんな訳ねえだろ」
「なあ」
他の面々も言いだした。彼等にとっては全く理解できない話だというのだ。
「エウロパ軍がそんなことするかよ」
「俺達だって誇りはあるんだ」
当然彼等にも誇りはある。エウロパ軍もまた軍規軍律が厳格なことで知られている。ただし彼等の誇りは職業の軍人としてではなく貴族という階級から来るものであるのだ。
「何で略奪なんてな」
「そんなことをするんだ」
「色々言ってたらしいぜ」
連合軍の兵士達のことを話したその兵士がまた言う。
「俺達エウロパ軍がサハラで悪の限りを尽くしたとかな」
「生きる為の戦争をしただけだろうが」
「大体一般市民には指一本触れちゃいねえぜ」
これはかなりのレベルにおいて真実の話であった。エウロパ軍はサハラ侵攻はしたが一般市民を攻撃対象としたりしたことはないのだ。貴族として醜い行為であると認識していたからだ。ここでも自分達は貴族だという認識がはっきりと存在していたのである。
「それで何で言うんだ?」
「あいつ等嘘ついてるんだろ」
「いや、どうもそれが違うらしい」
「違うってか」
「ああ。十字軍とかな」
また随分と古い話だ。
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