ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第八部第三章 異邦人その一
                              異邦人 
 連合とエウロパの対立が深刻化している頃連合軍においては何時になく訓練が激しくなっていた。これは全ての部隊においてそうであったがとりわけこの部隊ではそうであった。
「まだだ、遅いぞ!」
 司令の叱咤が飛ぶ。
「敵は待ってはくれん。それを忘れるな!」
「はい!」
 それに応える声が響く。彼等サハラ義勇軍は今彼等の管轄する宙域において激しい訓練を繰り返していたのであった。
「やれやれ、司令もよく続くぜ」
 その中で展開する一機の炎龍で呟く男がいた。ウダイである。
「まあそうでなくちゃ戦いはできねえんだがな。訓練をしないと強くはならねえ」
 彼にもそれはよくわかっていた。歴戦の猛者としてそれは当然のことであった。
「ウダイ大尉」
 ここで通信が入った。
「おう」
 彼はそれに応えた。
「貴官の部隊は今どんな状況か」
「当然だが全機いるぜ。訓練で死んだりはしねえよ」
「そうか。それならいい」
 オペレーターはそれを聞いて安心した。
「おい、待ってくれ」
 その言葉にウダイは妙なものを感じた。
「訓練で死んだりはしねえだろ、普通」
「普通はな」
 オペレーターは答えた。
「だが今我々が行っている訓練は普通の訓練ではない。限り無く実戦に近い訓練だ」
「それはわかってるよ」 
 確かにかなり激しい訓練であった。実弾こそ使わないもののそれに準ずるものであった。
「だから気は抜いちゃいねえ」
「よし、流石だな」
 オペレーターはそれを聞いて満足した。
「ではこれからも頼むぞ」
「おうよ」
 彼は力強い声で答えた。
「任せとけ。サハラの男のやり方を見せてやろうぜ」
「ああ」
 そのオペレーターも当然サハラ出身である。難民であったのも同じだ。この部隊は皆サハラの者であるのだ。
 ウダイ率いる炎龍の部隊が宙を飛翔する。そして彼等は次の標的に向かうのであった。
 この時グーダルズも訓練に参加していた。彼はティアマト級巨大戦艦の中の一隻に砲術士官として乗り込んでいた。
「よし、撃て!」
 艦長の命令に従い指示を下す。それに従いティアマト級巨大戦艦の主砲が一斉に火を吹く。
「どうなった!?」
 彼はもう初老に達している先任下士官に問うた。見れば最上級曹長の階級章を着けている。
「ハッ」
 問われたその最上級曹長は返答した。
「全弾命中しました」
 モニターを見てそう報告した。
「そうか。それは何よりだ」
 彼はそれを受けて微笑んだ。彼等も訓練中であるから作業服を着ている。連合軍においては兵士や下士官は青、将校は紫の作業服となっている。
「それにしてもこの艦の主砲は凄いな」
「そうでうね」
 曹長はそれに頷いた。
「まるで要塞の主砲ですよ。巨砲なんか見たこともない程です」
「そうだな」
 グータルズも頷いた。
「こんな巨艦を建造するだけでも信じられないが一隻だけじゃないしな」
「はい」
「一個艦隊ごとに一隻ずつ旗艦としてか。サハラでは考えられない話だ」
「全くですな」
「ところでこの艦の名前は司令が決められたのだったな」
「ええ」
 曹長は答えた。
「メフメットといいましたな、確か」
「ああ、メフメットだったな。この艦は」
 実は名前がついてまだ数日しか経っていないのである。ティアマト級の中でも新造艦であった。かってコンスタンチノープルを占拠したオスマン=トルコの名君の名である。
「この艦の名にちなんでいきたいものだな」
「全くです」
「狙うはわかっているな」
「無論」
 曹長は頷いた。
「コンスタンチノープルではなく」
 グーダルズはニヤリと笑った。
「オリンポスです。憎きエウロパの首都」
「ああ」
 それこそが彼等の目標であった。彼等の目は遥かな敵の首都を見据えていたのであった。
「ふむ」
 サハラ義勇軍の資料を読みながらラビルヘンは考えていた。
「思ったよりもずっといいな」
「左様ですか」
 傍らに控える副官のリー=ミケンズがそれに問うた。大佐の階級を持つ黒人である。ハイチ出身である。
「うん。実は彼等の士気について懸念していたのだ」
「士気ですか」
「そうだ。果たしてサハラの彼等が我が軍に馴染めるかと思ってな」
「それでしたら面白いことになっています」
「面白いこと」
「はい」
 ミケンズは答えた。
「サハラ義勇軍に独特の風潮が生まれつつあります」
「ほう」
 それを聞いたラビルヘンは顔を上げた。
「一体どのようなものかね」
「はい。仲間意識ですが」
「サハラの者同士からくる」
「そうですね。互いに助け合い連帯意識が強まっております」
 本来軍にはそうしたものを育む土壌がある。そうでなくては戦争はできない。だが連合軍は軍そのものをビジネスであると考える風潮が強く、そのうえ連合の個人主義もありそれは弱かったのだ。
「それをもとにどのような困難な訓練にも励んでおります」
「それはいいことだ」
 ラビルヘンはそれを聞き頬を緩めた。
「本来はそうでなくてはならないのだがな」
「はい」
 ミケンズもまた連合軍のいささかドライな考えには不安を持っていたのだ。
「それでは彼等をより鍛え上げることもできる」
「はい」
「将に精鋭だな。我が軍にとって最大の」
「そうですね。そして極論を言えば」
「火事場に飛び込んでくれる存在です」
 少なくともそう見られてはいるのがサハラ義勇軍であった。彼等は連合の者ではないのだから。だがその装備や待遇は連合のものであり事情は複雑である。
「いざ戦いとなるとそうした部隊も必要だからな」
「はい」
「彼等がそれを果たしてくれるというのなら有り難い」
「そうですね。ただでさえエウロパ軍に比べて我が軍は将兵の質や士気では不安があります」
「うむ」
「物量においては圧倒的にあり、艦艇の火力や防御力、情報収集能力において勝っているといっても」
「そうだな。それだけで勝てるとは思わないことだ。それに我々は勝つことよりも優先させなければならないことがある」
「わかっております」
 ミケンズは答えた。連合特有の問題であるが戦死者を出さないことであった。戦死者を出せばそれだけ多くの批判が軍に来る。それだけではない。志願者も減れば今まで手塩にかけて育てた貴重な人材もいなくなる。それに遺族への補償もある。連合はとかく軍人の命が高い国であった。
「それだけは避けなければならないぞ」
「はい」
 ミケンズは頷いた。
「それだけにやはり彼等の存在は貴重なものとなりますね」
「そうだな。それだけに彼等の人材登用は大胆にやりたい」
「はい」
「彼等には通常の軍よりもさらに実力主義でいこう。まずは」
 彼はここで先の訓練のデータに目をやった。
「艦長クラスだが。まだティアマト級の艦長に空きがあったな」
「はい」
「それに人材を抜擢したいな。そうだな」
 ラビルヘンはそう言いながら資料を見ていた。
「このグータルズ少佐だが」
「はい」
「砲術士官としての能力が凄いな。全弾命中させているではないか」
「ええ。それにより中佐に昇進しております」
「早いな。だがそれではまだ不十分だ」
「と言いますと」
「もう一階級昇進だ。大佐になってもらう」
「大佐に」
「そしてティアマト級の艦長を務めてもらおうか。どう思うか」
「幾ら何でもそれは」
「早いかな」
 彼はそう言いながら副官に目をやった。
「そうではないでしょうか」
 ミケンズは上官のその問いに遠慮がちにそう答えた。
人気サイトランキング site_access.php?citi_id=254078182&size=200小説・詩ランキングcont_access.php?citi_cont_id=343008101&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。