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第八部第二章 議会その五
「連合が騒がしいな」
 連合、エウロパ、そしてサハラにおいてそれぞれの動きがあったその頃マウリアでは特にこれといった動きはなかった。言うならば傍観者であった。クリシュナータはラーンチと共に夕食を採っていた。カレーであった。
 マウリアのカレーは連合で食べられるカレーとは違う。連合のカレーは十九世紀にイギリス海軍が食べていたパンにつけて食べるルーを見た日本海軍の者が米に合うように改良したものがもととなっている。そしてそれは日本においてかなりの人気となりすっかり国民食となった。それとインドネシア等のスパイスを効かせた赤や緑のカレーである。マウリアのカレーとはかなり異なっている。
「そのようですな」
 ラーンチはカレーを食べながら落ち着いた顔で答えた。
「まあそれも当然でしょう」
「うむ」
 クリシュナータはそれを受けて頷いた。
「君は今後どう見ているかね」
「連合のことでしょうか。それともエウロパのことでしょうか」
「両方だ」
 クリシュナータはカレーを一口食べ終えた後で答えた。
「この一千年の間実際に衝突こそなかったが対立してきた双方がどうなるか、面白くなりそうだと思わないか」
「確かに」
 ラーンチもそれは彼と同じ考えであった。
「双方共最早引くに引けない状況だと思います」
「言葉が少し違うのではないかな」
「ふふふ」
 ラーンチはクリシュナータの指摘を否定しなかった。
「では言い替えましょうか」
「うむ」
「双方共引くつもりはない、と」
「そういうことだな。そして起こるのは」
「戦争です。今までかってない規模の戦乱となるでしょう」
「そうだな。だが力の差があり過ぎる」
 連合の国力はエウロパの三十倍である。やはりそれが最も大きかった。
「それに連合にはあの巨大戦艦がある」
 ティアマト級のことだ。
「それだけではない。連合の艦艇はどれも大型で火力、防御力に優れているな」
「はい」
 解放軍との戦いでそれは立証されていた。哨戒能力も相当なものである。
「エウロパの艦艇のことは詳しくは知らないが」
「火力、防御力共連合のものには遥かに及びません」
「そうか。やはりな」
「はい」
「では彼等が勝っているのは何だね」
「機動力でしょうか。これだけは連合のそれとは比較になりません」
「ふむ」
「これを生かせればあるいは」
「そして兵力差を何とかすればな」
「ええ」
 彼は答えた。
「ただ士気と実戦経験は彼等の方が上です」
「サハラとの戦いと祖国防衛の為か」
「それに軍人としての意識です」
「そういえば連合とエウロパではかなり違うな」
「はい」
 ラーンチは答えた。
「それもかなりのものです」
「そうだな。連合では軍人はあくまで職業の一つに過ぎないが」
 これは連合らしいビジネスライク考えであった。彼等は軍人とはあくまで給料を得て生活する為の職業としか考えていないのである。
「エウロパでは騎士です」
「騎士か。確かにな」
「はい」
 エウロパでは軍人は貴族にとっては誇りであり義務であった。代々軍人という家も実に多い。彼等にとってはそれこそが貴族としての務め、そして誇りなのであった。
「軍人と騎士か。どちらが正しいと言うべきかわからないが士気にかなりの差があるのは事実だな」
「そうですね。連合の軍人達は命を惜しみますが」
 それは兵器の設計においても如実に現われている。彼等はとかく戦死者を出すのを嫌う。これは戦死者が増加することによって志願者が減るのを怖れる国防省や支持率の低下や責任を問われることを避けたい政治家の思惑、そして何よりも高給を約束されて入隊したというのにむざむざ死にたくはないという軍人達の本能、そこに軍人の人権や生活を主張する市民団体の主張によりそうなるのである。しかもここにはそうした生活環境を取り扱う企業も入るのだ。事情は複雑なものであった。連合はとかく一つのことを為すのに実に様々な勢力が顔を出すが軍事においてもそれは全く変わらなかった。
 だがエウロパはこの点においては違っていた。軍人であるということは誇りであり義務である。それならば命を捧げることも問題とはならないのである。これは実に大きな差であった。
「後一つ面白いことがわかりました」
「それは何だね」
「これでございます」
 ラーンチはここで今自分自身が食べているカレーを指差した。
「ほう」
 それを見たクリシュナータは面白そうに眉を上げた。
「連合においては実に色々な食べ物があります」
 そこにも国力差が現われていた。
「それは軍においても変わりません」
 これもまた志願者を集める為の待遇であった。
「我々も大してかわらないかも知れませんがね」
「いや、それは違うな」
 クリシュナータはそれは否定した。
「我々はこれを食べているではないか。普段でも戦場でも」
 そう言ってカレーを指差した。
「ははは、確かに」
 これにはラーンチも笑った。
「まあカレーにも色々ありますけれど」
「そうだな」
 実際一口にカレーといっても多くの種類がある。インド料理全般をさしているという指摘まである程である。
「明日は何のカレーだったかな。今日はチキンだったが」
「羊のカレーらしいですよ」
「そうか、それはいい」
 それを聞いたクリシュナータは頬をほころばせた。
「私は羊が好きでな」
「私もです」
 ラーンチもそれに答えた。
「あの匂いも消えますしね」
「うむ」
 どうやら彼は羊の匂いが好きではないらしい。
「では明日のカレーも楽しみにしていよう」
「はい」 
 こうして二人は食事を終えるとそれぞれの職場に戻った。そして来たるべき日に備えるのであった。
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