第三十一部第二章 外から見えるものその十九
「それに関しては何の議論の必要もありませんな」
「若しその際」
あるケースが言及された。
「オムダーマンかティムールが何か言ってきたならば」
「その際は無視すればいいのです」
それだけであった。
「何の問題もなく」
「ですな。彼等に言われる義理はありません」
「言う方がおかしいですな」
「はい、その通りです」
結論としてはこうであった。
「連合は連合、サハラはサハラ」
またこの言葉が出た。
「それで行きましょう」
「ケースバイケースですね」
「そういうことです」
実に便利な言葉だった。こうした場合には。政治ではこうした便利な言葉が色々とある。彼等もそれを承知のうえで使っているのである。
「ですからこれに関してはそういうことで」
「ですな。それでは」
「はい」
ここで話が纏まった。
「また明日御会いしましょう」
「明日もハードな一日になりそうですしな」
「そうですね。いやいや、それでも」
彼等の言葉に少し剣呑な嫌味が混ざった。
「流石は日本と言うべきでしょうかな、これは」
「全くです。まさに狐」
伊東のことも言われる。ここでも彼女は狐であった。
「手の込んだことをしてくれるものです」
含み笑いを浮かべつつ彼等は別れた。これでこの日の晩餐会は終わった。しかし会議はこれで終わりではなかった。むしろ幕を開けたといってもよかった。
その時伊東は。官邸の己の部屋にいた。そしてそこで一人デスクワークにあたっていた。だがサインを続けているうちに扉をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
入るように言う。すると外相である東が入って来たのだった。
「少し宜しいでしょうか」
「ええ、いいわよ」
にこりと笑って東に応える。
「今日はオールナイトのつもりだし」
「徹夜ですか」
「必要とあらばよ」
そのにこりとした笑みで彼に答えるのだった。
「首相はそういう仕事だから」
「少しでも寝なければもちませんが」
「それはもう見つけてあるから」
「左様ですか」
「寝られる時間を見つけるのも仕事のうちよ」
彼女は言う。
「首相になった時には覚えておいてね」
「またそんな御冗談を」
今の首相になった時には、という言葉には苦笑いを浮かべるのだった。こうした表情からこの東も政治家としては実直な人物であるのがわかる。
「私は首相には」
「首相というか地位はね」
「ええ」
「向こうからやって来る場合もあるわよ」
「そうですか」
「なろうと思ってなれない場合もあれば自然になれる場合もある」
そしてこう述べるのだった。
「そういうものなのよ」
「何か運命論みたいですね」
「半分位はそうね」
そして彼女もその言葉を認める。
「必然としてそうなる場合もあるわ」
「そうですか」
「これは地位だけじゃないけれどね」
そしてここでこうも述べたのだった。
「実際のところね」
「といいますと」
「政治の世界は全てそうよ。自然になるものもあれば」
「そうはならない場合もある」
伊東の言葉に合わせて述べた。
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