第八部第二章 議会その三
「今日の会議はエウロパとの戦争におけるおおよその計画です」
「はい」
軍服だけでなく背広を着た男達も八条の言葉に頷いた。
「まずはどのルートで侵攻するかですね」
「それですが」
まず参謀総長である劉が席を立った。
「やはりブラウベルグ回廊からの侵攻が望ましいと思います。そしてそこからオリンポスを目指します」
敵の首都攻略に重点を置いたものであった。
「あの回廊からですか」
「はい」
彼は頷いた。
「やはりここからの侵攻が最もよいと考えます」
「距離や補給を考えるとそうですね」
「はい」
だがここで異論が出て来た。
「それですが」
一人の長身の浅黒い肌のアジア系の男が立った。目は緑である。階級は大将であった。
「ボブ=フィアート大将」
劉は彼を見てその名を呼んだ。
「はい」
彼はそれに答えた。
「その作戦について異論を述べさせて頂きます」
「それは」
八条だけでなくそこにいた全ての者が彼に注目した。
「どの様なものかね」
「はい」
彼は話しはじめた。
「まずブラウベルグ回廊からの侵攻ですが多くの問題があります」
「問題」
「はい。道が狭く大軍の行動には不向きです。それに出口で敵が待ち構えていることが予想されます」
「ふむ」
「それだけでなくエウロパに入った後も補給路を狙われる可能性も高いです。それを考えるとブラウベルグ回廊からの侵攻は多くの問題をはらんでいると言ってもよいでしょう」
「成程な」
「補給が途絶えては勝てるものも勝てません。それについては十二分に考慮されるべきかと思いますが」
「では貴官に聞きたい」
「はい」
「それに対して何か対策はあるのかね」
「二つあります」
彼は答えた。
「二つ」
「はい。まずは侵攻路自体を変えること」
「ふむ」
「ブラウベルグ回廊ではなくサハラから侵攻するのです。ハサン、ティムールに道を借りて」
「そして総督府から侵攻するのだね」
「そうです。そしてもう一つあります」
「それは」
「劉参謀総長と同じですがブラウベルグ回廊からの侵攻です」
「それならば異論ではないのではないか?」
「お話は最後まで御聞き下さい」
どうやらわりかし鼻っ柱の強い者のようである。
「確かに道は同じです。ですが」
「ですが」
「まずは先遣部隊を派遣します。そして彼等にニーベルング要塞群を陥落させます」
「ふむ」
「そのすぐ後ろに後続部隊を置いておきます。そして彼等はニーベルング要塞群陥落後にエウロパの各方面に展開します」
「成程な。首都を積極的には狙わないと」
「最初は。それよりも補給路の確保の方が重要です」
「だがそれでは戦力が分散するのではないか」
こう反論があった。だがフィアートの答えは淀みがなかった。
「それについても考えています」
「ほう」
「エウロパの北から南まで達するのです。そしてそこから西へ進む」
「オーソドックスといえばオーソドックスだな」
古来よりある戦略である。第一次世界大戦の西部戦線や第二次世界大戦の東部戦線と似たものであろうか。
「ですがこれならば補給路も守れます。それに戦力も均等になります。我々と彼等の戦力差を考えるとかなりの効果があると思いますが」
「確かにな」
これには多くの者が頷いた。
「ではそれでいくとするか。どちらかを選んでな」
「はい」
フィアートはそれを聞いて満足気に頷いた。
「長官」
皆八条に顔を向けてきた。
「決裁をお願いします。どれを採用されますか」
「そうですね」
まずはブラウブルグからオリンポスを一直線に狙うルート、そしてサハラから侵攻するルート。最後はブラウベルグから侵攻し、じわりじわりと進んでいくルート。この三つである。判断は八条に委ねられた。
「それでは第三の案でいきましょう」
ブラウベルグからの侵攻ルートであった。
「オリンポスをすぐに狙うのは確かに危険です。サハラのルートは外交上さらに複雑な問題に発展する恐れがあります」
「はい」
他国の軍が入るのをよしとしない者も多い。それに後でどのような要求をされるかわかったものではないからだ。
「ですからサハラのルートも現実的ではないと思います」
「わかりました」
「それを考えると」
ここで一呼吸置いた。
「やはり第三の案しかないと思います」
「わかりました」
一同それに頷いた。
「今回の最高責任者は」
「はい」
「マクレーン元帥とします。宜しいですか」
「ハッ」
マクレーンは席を立って敬礼して応えた。
「次席として劉元帥。二人には侵攻作戦の指揮も執ってもらいます」
「ハッ」
劉も席を立った。そして敬礼する。ちなみに軍の席次においては宇宙艦隊司令長官の方が上である。
「参加兵力は二千個艦隊、六十億を計画したいと思います」
「六十億」
それを聞いて息を飲まない者はいなかった。人類史上かってない規模の参加兵力であった。
「はい。それにサハラ義勇軍百個艦隊を加えたいのですが」
「彼等を」
「そうです。彼等を先鋒として。その方針で戦略を計画して頂きたい」
「わかりました」
「合わせて二千百個艦隊程になります。宣戦布告が為されたならばすぐに動員をかけます」
「はい」
これだけの規模である。宣戦布告と同時に侵攻を仕掛けるのには無理があった。
「ですが今からもう準備だけは整えておかなくてはなりません」
「はい」
「全軍に第二種警戒態勢を発動して下さい。宜しいですね」
「了解」
次々に指示が下る。
「以後は参加する艦隊の選定、そして作戦計画の詳細を詰めていくこととします。そして時が来たならば兵力を集結させ侵攻します。いいですね」
「ハッ」
軍人達も文民達も皆一斉に立ってそれぞれ返礼した。こうして彼等の方針はおおよそが決定した。
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