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第三十一部第一章 勝利の影響その三
「連合軍軍人の犯した犯罪は多いでしょうか少ないでしょうか」
「少ないでしょう」
 論説委員は述べた。
「とりわけエウロパとの戦争においては」
「ああ、そういえばそうですね」
「確かに」
 識者と学者もそれに頷く。
「連合軍は略奪暴行の類が非常に少ないですね」
「一般社会よりも遥かに少ない位です」
「これは軍規軍律を徹底させているからです」
 政治家は胸を張ってさえいた。
「だからこそ彼等は犯罪を犯すことが少ないのです」
「それでそればっかりやっているから訓練度が落ちているっていうことでしょうか」
 論説委員の突っ込みは彼が軍事に疎いからであるのだが実のところ容赦のないものであった。その通りであるのは最早連合では常識でもあるのだが。
「それはそれで問題が」
「だって当たり前でしょ」
 ある女性タレントが軽い調子で言ってきた。タレントも呼ばれているのだ。
「訓練厳しくしたら人来ないじゃないですか」
「あの、それを言ったら」
「物凄くやばいんですけれど」
 学者と識者の顔が引き攣っている。あまりにも真実であり過ぎる言葉だったからだ。
「連合軍は将兵の待遇にはかなり配慮していますけれど」
「だからといってですね」
「けれどあれですよ」
 タレントは軽く一見して何も考えていないようだがその中に恐ろしい真実を含ませた言葉を続ける。天然なのか計算なのかわからない曖昧さの中で。
「連合軍ってあまり訓練していませんよね」
「何処の軍隊と比べてですか?」
「日本軍です」
 かつての連合各国の中ではとりわけ訓練の厳しい軍隊として有名であった。なお彼等の軍律の厳しさも相当なものとして有名だった。
「日本軍と比べたら全然ですよな」
「あそこと比べたら駄目ですよ」
「そうそう」
 学者と識者はこうタレントに言い続ける。
「あの軍隊は特別でしたよ」
「それにそのせいで人が集まらなかったじゃないですか」
 識者もさりげなくとんでもないことを言う。
「あんなの繰り返したら駄目ですよ」
「人が来ないと話にならないじゃないですか」
「やっぱり連合軍って中々人が来ないのですね」
 ニュースキャスターは何気なくそれを尋ねてきた。
「前々から言われていますけれど」
「当たり前ですよ」
 あの軍人出身の政治家の隣にいる若い政治家が話に加わってきた。なお彼等はどちらも中央政府の議員だ。今話している彼は別に軍とは関わりがない。しかも保守派だ。だから随分と気楽な様子で話す。軍人出身の政治家はその横で強張った顔になっているのと対象的だ。
「他に幾らでも仕事があるのに」
「仕事がですか」
「軍は仕事ですよ」
 実に連合らしい考えであった。
「辛い仕事には誰も行きませんよ」
「そうですね。それはね」
「じゃあやっぱり」
「そういうことです」
 彼はにこやかに笑って述べる。聊かわざとらしくもある笑みだった。
「訓練厳しくしたらそれだけ入ろうっていう人がいなくなります。給料もあげて福祉も充実させてとにかく待遇をよくしないとね。駄目なんですよ」
「そうなんですか」
「そうです。だから訓練を厳しくできないんです」
「ですか」
「規律が厳しい分だけ。そういうふうになっています」
「あの、ちょっと待って下さい」
 ここで学者がその政治家に突っ込みを入れる。
「何ですか?」
「それですと規律を緩やかにすべきだって意見になりますよ」
「その通りです」
 今まで静かにしていた軍人出身の政治家もそれに加わる。
「それはまずいですよ」
「規律のない軍隊なぞ」
「いや、それでいいんですよ」
 その政治家はまた微妙な発言をしてきた。
「それでいい!?」
「はい。まずは規律です」
 そのうえでこう言うのだった。
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