第八部第一章 軍人と騎士その五
「只善意で条約を結びたいと申し出るとは思えません。やはり何か思うところがあるのでしょう」
「私もそう思います」
カバリエもアッチャラーンに同意した。
「条約を結んだ場合今後それをバネに何らかの動きを起こすものと思います」
「それが何か、だな。問題は」
「はい」
キロモトの言葉に二人は頷いた。
「国防長官」
ここでキロモトは八条に話を振ってきた。
「はい」
「君はこれについてはどう考えているかね」
「私は」
彼はそれを受けて自説を述べはじめた。
「おそらく我々と条約を結んだ後で軍事行動に移るものと思います」
「相手は」
「まずはエウロパの総督府でしょうか。しかしそれで終わりとは思えません」
「というと」
「ハサンかオムダーマンを狙うものと思います」
「まさか」
それを聞いたアッチャラーンとカバリエが声をあげた。
「ティムールにはそんな国力は」
「北方を統一したとしてもそこまでは」
「だからこそです」
八条は二人に対して述べた。
「彼は自国の国力をよく認識しています。それ故我々との同盟を望んでいるのです」
「遠交近攻というわけだな」
「はい」
キロモトに答えた。
「外交で言えば常道かと」
「成程」
「確かに」
アッチャラーンとカバリエもそれを聞いて納得した。二人も伊達に首相や外相を務めているわけではないのだ。
「しかしだ」
だがここでキロモトが懐疑的な顔になった。
「我々はサハラには介入するつもりはないぞ」
「ですがその確証はありません」
「それはそうだが」
「確証を得られるだけで大きいかと思いますが」
「例えばです。ハサンとの戦いをはじめるにあたり我々がティムールと友好関係にあればどうなりますか」
「当然我々は介入は出来ない。ハサンとも不可侵条約があるしな」
「それかと。彼等はまずこれからの戦略において我々の勢力が及ぶことを避けたいようです」
「そしてそれからのこともね」
「ええ」
カバリエに答えた。
「ハサンとオムダーマン、どちらかを倒すと残る一方も討つのは当然の成り行きでしょう。そして統一した後も我々との条約
を出すでしょう」
「不可侵だと」
「そうです。彼はそうして我々がサハラに介入するのを防ぎつつ、独自の勢力を維持する考えだと思われます。無論交易等についても考えているでしょうが」
「深いわね」
「ですがそれだけの考えがあるかと」
「そうだな。シャイターン主席ならな」
アッチャラーンも頷いた。
「大統領はどう考えられますか」
「私か」
「はい」
三人はその目をキロモトに集中させた。裁決する権利は彼にあるのであるから当然であった。
「そうだな」
彼はそれを受けて暫し考え込んだ。
「どちらにしろ我々はサハラに介入するつもりはない」
「はい」
議会にもそうした主張をする者はいなかった。彼等にとっては開拓地やこれから起こるであろうエウロパとの衝突、そして連合内における通商や経済等が優先課題である。サハラは遠い異国のことという認識が強かった。少なくとも文化も何もかもが全く違い、かつ地形も複雑なこともあり興味の対象外であった。少なくとも一千年に渡りサハラに兵を送った国はなかった。
「条約を結んでもデメリットはない。メリットはあるがな」
「ですね」
ティムールが統一した際の保険であった。
「ただ彼等が条約を破った場合はどうするか」
万が一連合に宣戦布告してきた場合である。
「その時はこちらも迎え撃つまでです」
八条は即答した。
「その為に国境に兵を置いているのですから」
「確かにな」
「だがあちらには彼等を置いておきたかったな」
「はい」
サハラ義勇軍のことである。
「まあいいか。彼等にはこれから働いてもらうかも知れないからな」
「そうですな、その為にも鍛えておりますし」
アッチャラーンもそれに同意した。
「ですがその話はまだ先に致しましょう。問題は条約です」
「ティムールとの」
「はい」
カバリエは話を出した後で頷いた。
「締結して問題はないかと思いますが」
「そうだな」
キロモトはそれを認めた。これで決まりであった。
「条約を結ぼう。すぐに議会にも話をしよう」
「はい」
こうして話し合いは終わった。議会としても同盟に反対する理由はなかった。ハサンやオムダーマンが内心どう思っていようが表向きには反対することはできない。こうして連合とティムールは同盟を結んだ。これはエウロパにも伝わった。
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