第八部第一章 軍人と騎士その三
使者はシャイターンのところにも来ていた。それは参謀総長である劉と宇宙艦隊司令長官マクレーンであった。ここには二人が来ていた。
「ようこそ」
シャイターンは自ら二人を出迎えた。だがあくまで非公式の会合である。
「はい」
二人は敬礼した。それで答礼とした。
「お話はわかっております」
シャイターンはすぐにそう切り出した。
「エウロパのことですね」
「はい」
二人はまた答えた。
「既に地形及び軍事基地のことはわかっているのですが」
「ほう」
それを聞いたシャイターンの目が微かに細くなった。
「それは凄い」
「まあ色々とありまして」
ハサンから入手したことは伏せている。だがシャイターンはそれを知っていた。だがあえてここでは口には出さないことにしたのである。
「我々からは何を欲しいのでしょうか」
「人についてです」
劉が答えた。
「人」
「はい。エウロパのどの艦隊が何処にあるのか。そしてその編成及び高官達の配置等です。それについての情報を欲しいのですが」
「かなり細かいですね」
「はい。ですが」
マクレーンが言う。
「必要な情報であります。我々にとっては」
「わかりました」
シャイターンは頷いた。
「ですが一つ疑問に思います」
「と言いますと」
密室で二人の声が響いた。
「それを我々が持っていると思っておられるのですか」
シャイターンは二人を見据えながら問うた。
「このティムールが」
「はい」
二人は即答した。
「そう確信しているからここに来たのです」
「シャイターン主席」
二人は言った。
「貴国の情報網については知っているつもりです。そしてその殆どがエウロパに向けられていることも」
「ふむ」
シャイターンは答えなかった。否定はしなかった。だがここで三人は互いにあることを隠していた。シャイターンは確かにその諜報網をエウロパにかなり向けている。だがそれはエウロパだけでなくハサンやオムダーマンに対してもである。連合やマウリアにはまだ必要がない故向けていないだけなのである。
「では知っている限りのことをそちらにお伝えしましょう」
「おお」
二人はそれを聞いて喜びの声をあげた。だがシャイターンはまだ笑ってはいなかった。
「ですが一つ条件があります」
「条件」
「はい」
彼は答えた。
「その条件とは」
ハサンは交易に際するさらなる優遇処置であった。これはハサンにとって至極当然な要求であった。交易国家たる所以である。
「同盟です」
「同盟」
「はい。連合と不可侵条約を結びたいのですが」
「不可侵条約ですか」
「そうです。我々は連合に対して非常に好意を持っておりまして」
外交上でのリップサービスである。
「それで今後共友好関係を結びたいのです」
「そうなのですか」
「お願いできますか」
「お待ち下さい」
だが二人はこの場ではそれを断った。
「何故でしょうか」
「我々の一存でできるものではありません」
「左様ですか」
「はい。これは国防省及び外務省と話をしてからになります。暫くお時間を頂きたい」
「確かハサンとの交易に関する条約はすぐに済んでおりますが」
「ええ、それは」
流石によく知っていると思った。だが二人はそれを顔には出さなかった。
「あの時は事前にそうした話もありましたので」
「そして使者の中に外務省や商務省の者もいたのです。それと合わせての話でした」
「そうだったのですか」
「はい。ですから今ここで条約を結ぶことを約束は出来ません」
二人はそう答えた。
「わかりました」
シャイターンはそれに頷いた。
「それではとりあえずはそちらの返答待ちということで」
「ええ、それで」
二人はそれに頷いた。
「それでは情報の提供もそれまで保留ということで」
情報を持っているということを告白した。撒き餌であった。
「よろしいですね」
「はい」
二人の答えは決まっていた。そして彼等はこの話をまず八条にあげた。マクレーンが電話をした。
「そうだったのですか」
遠距離用通信電話でそれを受けた彼は頷いた。
「はい。これは政治的な話になるものと思いまして」
極秘の情報用電話である。持っているのはごく一部の者達だけだ。彼等はそれを使って話をしていた。
「長官にお話しました」
「わかりました」
彼はそれを受けて答えた。
「よい判断だったと思いますよ」
「有り難うございます」
「条約となると一存ではできませんからね」
「はい」
「後は私が大統領や外相にお話をしておきます。御苦労様でした」
「といいますと我々はこれで帰国ですか」
「そうなりますね」
彼は答えた。
「政治的な問題です。それに」
「それに・・・・・・?」
「シャイターン主席が何を考えておられるのか、見極めたいと思います」
「彼がですか」
それを聞いたマクレーンの目の色も変わった。
「どういった印象を受けられました?」
八条はマクレーンに問うた。
「危険な香りがしますね」
マクレーンはそう答えた。
「一見美男子ですが」
「はい」
「それはあくまで仮面の様な気がします。その裏にはとんでもない野望があるものかと」
「野望ですか」
「はい。おそらく我々との同盟もそれが為でしょう」
「わかりました」
八条はそう答えた。
「それではこちらも対処の方法があります」
「どうなさるおつもりですか?」
「それは御二人が帰られてからお話します」
そしてこう語った。
「宜しいですね」
「異存はありません」
マクレーンはそう言うしかなかった。彼も軍人である。上官の命令には従う。
「それではお待ちしています。ハンバーガーでも食べながらお話しましょう」
「豆腐バーガーは駄目ですよ」
「わかっております」
最後は軽い話で締めた。そして八条は電話を切った。
「どうでしたかな」
電話の向こうにいた劉がマクレーンに話の結果を問うてきた。
「やはり大統領にまでいきますな、この話は」
「当然でしょうな」
これはわかることであった。
「では我々は後は本国で詳細を報告するだけですね」
「ええ」
マクレーンはそれに頷いた。
「ではすぐにここを経ちますか」
「長官がハンバーガーを用意して待っておられるそうですよ」
「ほう」
それを聞いた劉の目が変わった。
「私は豚肉のハンバーガーが宜しいですね」
「少なくとも長官のお好きな豆腐のハンバーガーは勘弁して欲しいと申し上げておきましたぞ」
「それは何より」
劉はそれを聞いて笑みを浮かべた。
「私もあれは少し・・・・・・ですからな」
「全くです」
特にマクレーンは遠慮したいようである。
「日本人はいつも思わぬアイディアを出しますが」
「それが他の者にもいいとは限らないのです」
そういうことであった。彼等は豆腐のハンバーガーは好きではないのだ。ただ八条は好きである。これも好みの問題であった。
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