第八部第一章 軍人と騎士その二
「連合のディカプリオです」
「貴方が」
「はい」
ディカプリオは答えた。彼は連合の元帥の一人としてその名を知られているのだ。
「今回は連合の使者として参りました」
「武官がですね」
「はい」
その返答には複雑な意味があった。
連合はシビリアン=コントロールが常識である。どの国においてもそれは変わらない。最高司令官は国家元首である場合が殆どであるがそれは文民である。国王や大統領は軍人ではない。国王は多分に儀礼的な一面が強いがそれでもやはり軍人ではないのだ。尚連合の二人の皇帝であるがエチオピア皇帝は軍の最高司令官である。だが日本においては天皇は軍の最高司令官ではない。首相が務めている。これもまた文民であるのは言うまでもない。そして国防相等軍事を統括する閣僚もまた文民である。時として軍事には全く不向きな人物が就任する場合もある。これもまた政治の複雑な事情の一つである。なお八条は元軍人であるが文民にあたる。彼はもう軍を退役しているからだ。軍を離れればもう文民なのである。
従って武官が使者に来ることは普通はない。通常は外務官僚がその任を果たす。それは例え元帥であっても同じことである。
だが今はディカプリオが目の前にいた。それだけでかなり異様なことであった。
「今回は特別な任務で参りました」
彼はそう答えた。
「それは何でしょうか」
「はい」
クシードの問いにキビキビと答える。
「そちらにあるエウロパの情報ですが」
「はい」
来た、と思った。予想通りである。
「どうなっているのでしょうか」
「はい」
クシードはそれを受けて答えた。
「お知りになりたいのですね」
「勿論です」
その為に来たのであるから当然であった。
「成程」
これは心の中の言葉であった。何故彼が今ここに使者として来たのかよくわかる。情報部長を。
「どういったものでしょうか」
「はい」
クシードはそれを受けて頷いた。
「かなりの情報が集まっております」
「ほう」
ディカプリオの二色の目が光った。
「どのような」
「まず地図ですが」
彼は話しはじめた。
「エウロパの星系及びその惑星の細かい部分までわかったものを持っております」
「ほう」
その目がさらに光った。
「そして国力ですが」
「ある程度までは認識しておりますが」
「それだけではありません」
彼はここでこう言った。駆け引きである。
「兵力がどのようなものかまでは御存知でしょうか」
「二百個艦隊程でしたな」
「ええ」
クシードは頷いた。
「しかしそれは通常戦力のみです」
「まだあるのですか」
「予備の兵力が。彼等は貴族制ですから」
貴族について言及した。
「彼等の持つ兵力も入るのです」
「それがありましたか」
貴族の中にはかなりの財産を持つ者もいる。そしてその財により私兵を持っているのである。その兵力もかなりのものとなっていた。
「それだけではないのです」
「といいますと」
ディカプリオは完全に聞き役に回っていた。
「志願兵もあります。危急の際の」
「志願兵」
「はい」
彼は答えた。
「貴族達には独特の意識がありまして」
「高貴なる者の義務ですね」
「はい」
この時ディカプリオの顔が微かに嫌悪感に歪んだ。これは連合の者の特色であった。
「エウロパの貴族達はかなりの特権を持っております」
「そうですね」
声にも嫌悪感が出ていた。
「何の為なのかは理解し難いですが」
「それはまあ」
クシードはここで言葉を濁した。
「しかしそれには義務が生じます」
「当然のことです」
ディカプリオは辛辣に答えた。
「特権に貪っている者など連合においてはおりません」
特権があればそれを活かすべし。それは色々ある。何も権力だけではないのだ。様々な状況に応じて優遇処置等もある。それもまた特権なのである。連合においてはそうしたことも複雑にあった。
「それは彼等も同じ考えなのです」
「そうなのですか」
やはりその彫刻の様な顔が微かに歪んだままであった。
「それに基づいて彼等は志願するでしょう」
「どれ程になりますか」
「そうですね」
クシードは考えた。
「おおよそですが十個艦隊程には」
「そうですか」
「少なくとも、ですよ」
そう付け加えた。
「かなりの戦力が集まると思われます。総勢で三百個艦隊は優に越えるでしょう」
「そこまで」
「ええ。彼等も必死ですからね。それでも少ない程でしょう」
「わかりました」
ディカプリオの顔は嫌悪感から真剣なものになっていた。
「それで話は戻りますが」
「はい」
「地図は何処にありますか」
「ええ。それは」
彼はそれについての話をはじめた。こうして連合はエウロパの地図及び軍事基地の情報を入手したのであった。
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