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第三十部第三章 疾風の追撃その二十四
『結局あれだろ。正規軍を失うわけにはいかない』
『ああ』
 民主政治においてはとりわけそうだが軍の損害が多ければそれはそのまま為政者への批判に直結する。しかし戦争を行うならば必ず損害が出る。そこが難しいのだ。それへの解決をするにはどうすればいいか。若し損害を気にしなくていい軍があればどうなるか。容赦なく前線に出すのが普通の流れだった。
『しかしあの長官そんな人間か?』
『八条長官か?』
『そうだよ。あの長官そういうのは好きじゃないだろ』
 八条の性格はよく知られていた。そうした他者を楯にするような人間ではないことも。
『そういうのを決定するか?』
『あの長官の好みはこの場合関係ないさ』
『関係ないか』
『現場はな』
 この場合の現場とは戦場のことだ。その戦場だ。
『全然関係ない世界だろ』
『関係ないか?』
『軍律とかは当然守られるさ』
 それは徹底されているのが連合軍だ。それだけは何時でも何処でも厳正に守らなければならないというのが連合軍、それを統括する八条の考えなのだ。それは実に徹底されていた。しかしであった。現場、つまり戦場は軍律以外にも問題があるのだ。実際の戦闘のことだ。
『けれどな。損害を出さないようにするのは』
『この場合は前線指揮官の考えか』
『そうだ、前線指揮官の考えだ』
 これが即ち現場の考えだ。
『御前が艦隊とか、いやこの場合は軍とか率いていたらどうする?』
『そりゃやっぱり』
『そうだろ?それだ』
 結論は一つしかなかった。
『犠牲を出すわけにはいかないからな』
『それでか。そうなるのは』
『それにだ』
『それに?』
『連中にもそうしないといけない事情があるからな』
『事情?』
 また話が動く。戦場における複雑な事情だ。
『正直連合軍は数が多いだろ』
『その話はもう出ただろ。ループさせるなよ』
『違う。連合軍はその数でジリジリと進むだけでいいところがあるだろ』
『まあな』
 エウロパ軍をそれで押すこともできる。そういうことだった。
『バリアー張りまくれば損害で出ないさ。速度に向けるエネルギーをバリアーに向けてな』
『そのかわり進撃はかなり遅くなるぞ』
『それでもだよ。連合軍にとっちゃ損害が出ないことが大事だからな』
 そういうことだった。
『それでもやっていけるんだよ、極論すれば』
『まあ次善の策だよな、それって』
 やはり順調な速度で進むのが常道なのだ。しかしそれもまた手なのだ。連合軍にとっては特にそうだ。確かに前線に楯となる部隊を置くことが最も犠牲を出さず順調に進む方法であるが。
『じゃあそうしないのか』
『だからだよ。連中がいるだろ』
『連中?』
『その義勇軍の奴等だ』
 彼等だった。
『奴等が自分から言って来たとしたら?』
『自分から望んで火事場に飛び込むのか』
『それだよ』
 話は妙な方向に向かっていた。
『その場合はどうなんだ?』
『どうなんだって言われると』
『断れないよな』
『だよな』
 これもまた答えが一つしかない質問だった。前線指揮官でそこにいたならば。
『しかし向こうから火事場行きを志願するかね』
『だからだ。向こうの事情だよ』
 そこをまた言われる。
『何度も言うが連中は難民だな』
『ああ』
 それは絶対の前提条件だ。この場合は。
『その連中が連合に留まるには何が必要だ?』
『功績だ』
 一言だった。
『その功績を立てるにはどうすればいいか。若し戦場にいるなら』
『まあそこで武勲を挙げるのが一番だな』
『そういうことだ』
 答えはこれであった。
『だから前線で戦うんだよ。わかるか』
『自分から志願してか』
『元々それを意図して設立されたものでもあるしな』
『おい、待て』
 ふとここで誰かが書き込んだ。
『何だ?』
『そういうことまで考えて義勇軍は設立されたってことか』
『そうなるだろうな』
『それを考えたのは誰だ?』
 あらたな疑問であった。
『八条長官じゃないんだよな』
『あの長官はそもそも作ったとしても正規軍に入れるだろ』
『まあな』
 実際に八条はそう考えて設立させた。これはネットでも知られていないことだが。
『しかしそうじゃないな』
『じゃあ誰が一体』
『さてな』
 これについては誰も答えられなかった。知らなかったからだ。
『そこまではわからないさ。ただ』
『ただ?』
『あの長官の考えを変えることができるとしたら』
 答えは次第に導かれていっていた。話をしていて見えてきたのだ。
『誰か、だな』
『だとすると誰だ?』
『国防長官の上だ』
 こう書かれた。
『それは誰か』
『ああ、成程な』
『そういうことか』
 これでこのスレに書き込んでいる皆はわかった。それで納得した書き込みが続く。
『二人のうちのどっちかか』
『しかもあの爺さんだな』
『あの爺さんだけで考えたのではないだろうがな』
 思わせぶりな何かを含んだ、それと共にそうしたことを楽しむような書き込みになってきていた。
『その筋だな』
『まあそういうことだな』
『それでだ』
 さらに書き込みが続く。
『見返りは何だろうな』
『色々あるだろ』
 今度はこう書かれた。
『それこそ何でもな』
『何か俺これからが凄い楽しみになってきたぜ』
『これからがか』
『ああ、それもかなりな』
『義勇軍がどうなるかな』
『見せてもらうか』
 実際にその楽しみを感じる言葉が書かれている。
『これから義勇軍がどうなるかな』
『難民もな』
『そうだな』
 そう書かれている。そのうえで。彼等は一人また一人とネットから一時去る。今はその議論がお開きとなりまたの時になった。ネットの議論はまた行われる時になればすぐに開かれるのだから。その時までの休止であったのだ。
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