第三十部第三章 疾風の追撃その十四
「我が軍は降伏するとな」
「わかりました」
「仕方がありませんね」
「悔やむしかないがな」
ラクジャサーンの言葉は実に苦いものだった。その苦さを噛み締めながらの言葉だった。
「だが。このまま無駄死にするよりはましだ」
「その通りです」
サハラでは降伏は恥ではない。生きていれば何時かは、という考えなのだ。だから彼等はここであえて降伏を選んだのである。そういうことであった。
「では。今から」
「うむ」
部下達の言葉に頷く。
「降伏すると通信を出せ。よいな」
「はっ」
敬礼で返す。こうしてこのハサン軍の方針は決まった。
ハサン軍からの降伏申し入れをアッディーンは突撃する中で聞いた。シンダントがその中で彼に対して問うてきた。
「閣下」
「降伏のことか」
「そうです。どうされますか」
「決まっている」
前を見据えたまま彼に答えた。
「受諾する」
「受諾ですか」
「先にも言った筈だ。戦いがないことに越したことはない」
それをあえてまた言うのであった。
「だからだ。喜んで受諾しよう」
「はい。それでは攻撃は」
「中止する」
既に攻撃態勢にも入っていたのだ。そこまで準備はできていたのだ。攻撃はただ命じるだけではできはしないのだ。とりわけ宇宙での戦いにおいてはそうである。
「敵艦隊の直前で止まれるな」
「今ならば」
シンダントはまた答えた。
「ここで指示を出せば間に合います」
「わかった。では全軍停止だ」
まずはこう指示を出した。
「それから攻撃中止だ。よいな」
「はっ」
アッディーンの指示に対して幕僚達の敬礼が帰った。
「後は彼等を武装解除しそれから後方に遅らせる」
「そして我々は」
「先に向かう」
これもまた予定通りだった。だからその言葉は簡潔で強いものだった。迷いもなかった。
「本隊と合流した後にな」
「わかりました。それでは」
「いい具合に終わった」
アッディーンはここで満足気に述べた。
「損害を出さずにな。さて」
「さて」
「これでハサン軍はどうなるかな」
敵軍について考えるのだった。
「第一陣の軍の合流はこれで果たせなくなったが」
「再び戦略の破綻ですか」
「第一の破綻はヘルマルド要塞の容易な陥落だった」
陥落させた本人の言葉である。だからこそ説得力のあるものであった。彼は簡潔であるが自信に満ちた声でそれを述べたのである。
「そして第二が」
「今だと」
「本来は戦力の一割程度を消耗させ撤退し」
「第二防衛ラインに入りさらに戦いを挑む」
「増大した戦力でな。こちらの戦力を少しずつ削り取っていくつもりだった」
「そのうえで」
シンダントはまた言う。
「最後には勝利を」
「そうだ。これは我々の戦力が消耗しなければ成り立たない話だ」
「はい」
その通りだった。戦力を消耗させるのが目的であるのにそれができなかったとなれば。もうそれで戦略の意味がなくなってしまう。そういうことであるのだ。
「これで第一次防衛ラインの件は終わった」
「では第二次は」
「第一次と同じだ」
言葉はここでも簡潔なものであった。
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