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第七部第五章 新たなる戦雲その五
「これだけ言えばわかるでしょ?」
「はい」
 八条にはよくわかった。彼も笑みを作った。
「ではあちらに使者を送るよう首相や外相にお願いしてみます」
「そうね、それがいいわ」
 伊藤は彼が自分の意を汲んだのを聞いて喜んだ。
「けれど話はそれからが全てのはじまりよ」
「はい」
「気をつけてね。何といっても連合にとってこうしたことははじめてだから」
「はい」
 八条はまた頷いた。
 連合は設立当初から戦争というものがなかった。各国間の利害の衝突は別の土地への進出等で防いでいた。資源や食糧、場所があれば人は戦争にまでは至らないということであった。エウロパは遮断していた。対外的にも対内的にもそうした面では安定していたのである。確かに海賊やテロリストには悩まされてきたが、戦争とは無縁の歴史を歩んできたのである。従ってその兵器も海賊やテロリストに対処したものであった。
「失敗は許されないわよ」
「わかっております」
 八条は伊藤の言葉に強い声で返した。
「その時は見ていて下さい。必ずやり遂げてみせましょう」
「頼むわよ」
 伊藤はそう言葉を返した。
「連合にとってもね。貴方にかかっているのよ」
「はい」
 八条はまた頷いた。
「まずはあちらからの情報ですね」
「ええ、そうよ」
「わかりました。それでは」
「健闘を祈るわ」
 それで電話は終わりであった。電話が切れると八条はすぐに顔を上げた。そしてまた電話を手にした。
「私です」
 彼はアッチャラーンに電話をかけていた。
「はい、すぐにお願いします」
 彼は何やら話をしていた。
「ええ、わかりました」
 話は順調に進んでいるようである。
「ではそれで」
 そして切った。だが電話はまだ終わりではない。
「どうも」
 今度はカバリエのところであった。また話をする。そして彼は少しずつ準備を進めていった。連合とエウロパの間の浪が高くなろうとしていた。

 南方を完全に掌握したアッディーンは首都アスランに戻っていた。彼はそれまでの道のりを長く感じていた。
「長かったな」
 久し振りに司令室に戻るとそう呟いて席に着いた。
「長かったですか」
「ああ」
 ハルダルトにそう答えた。
「アスランがこんな端の方にあるとは思わなかったな」
 そう言いながら後ろにある三次元地図を見る。そこにはサハラ全土の地図がある。
 見ればオムダーマンはサハラの西の端である。こうして見ると僻地にあると言ってよい。アスランはその中でもさらに西の方にあるのである。
「瞬く間に広くなったが」
「はい」
「その分首都は端に行った感じがあるな。何かと不都合だ」
「そうでしょうか」
 だがハルダルトはそれには懐疑的であった。
「私はそうは思いませんが」
「それはアスランに慣れているからだろう」
 アッディーンは彼にそう反論した。
「こうして見るとわかる。そろそろ首都機能についても考えなくてはな」
「はあ」
「だがそれは今すぐでなくてもよい」
 しかし彼は焦ってはいなかった。
「これからどうなるかわからないところもあるしな」
「といいますと」
「とりあえずは首都はオムダーマンの奥にあるな」
「はい」
「言い換えるとそれだけ安全な場所にあるということになる。戦争の時にはな」
「成程」
 ハルダルトはそれに大いに納得した。
「それは確かに防衛上有り難い話ですね」
「政務を行ううえでは支障が出る怖れもあるが。今だとギリギリといったところか」
「ギリギリですか」
「そうだ、これ以上領土が増えると考えなくてはいけないかも知れないが」
 その目は単に軍事のみを見ている目ではなかった。何時しかより広いものを見ていた。
「今の国土だとな。そこまでは至ってはいない。だがこれ以上広くなると真剣に検討する必要があるな」
「わかりました」
「この話はよく考えていてくれ。意見を求める機会があるかも知れない」
「はい」
「そしてだ」
 彼はまだ考えていた。
「次の敵だな、問題は」
「次ですか」
「そうだ。流れは大きく変わってきている」
 アッディーンはそう語りはじめた。
「サハラは今まで多くの国に別れていたな」
「はい」
「だが今ではそれは三国にまでなった。ここまでくると自然と流れも変わる」
「といいますと」
「統一だ」
 アッディーンはそう言い切った。
「今まで願っていても果たせなかったことだ、我々がな」
「統一ですか」
「ああ」
 彼は答えた。それはサハラの者達が一千年に渡って求めながら果たせなかったものだ。それが成しえるのはアッラーだけとさえ言われていた。
「遂にそれを考える時に来たのかもな」
「それは我々の手で」
「それはわからない」
 だがアッディーンはそんな彼を制した。
「ハサンかティムールか。それはわからない」
 彼は決して過信してはいなかった。オムダーマンの国力も冷静に見ていたのだ。それに基づいてハルダルトにそう語った。
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