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第七部第五章 新たなる戦雲その四
エウロパはやはり連合にバチカンのルートで諜報員を送り込んでいたのだ。そしてそれには枢機卿までが関わっていた。これは一大政治スキャンダルであった。
 連合の者の多くはこれに激昂した。そしてエウロパへの敵愾心をさらに高くした。エウロパはそれを事実無根だと主張したが証拠はあった。それにバチカンは口をつぐんだ。結果としてエウロパが連合と対立する関係となってしまった。
 元々犬猿の仲であった両国の関係はさらに悪化した。今までは対峙する程度であったが最早それは一触即発の状態であった。今にも戦争が起こりそうな状況となっていた。
「大変な状況になりましたね」
 八条は電話で伊藤と話をしていた。当然各国も安穏としている状況ではなくなっていた。
「そうね。中央議会は凄いことになっているでしょう」
「ええ、それはもう」
 八条は答えた。
「強硬派が勢力を持っています。エウロパを討つべしと。政党に関係なく」
「そうなの、それはこっちもよ」
 伊藤はそう答えた。
「閣僚の間でも強硬派の意見が強いわね。私はそれを抑えているけれど」
「抑えておられるのですか」
「ええ。まだ準備も何もできていない状況だし」
「準備が」
「そうよ。戦争準備はまだ何もしていないでしょう?」
「ええ」
 八条はそれを認めた。
「まだ何も決まってはおりません」
「そうでしょうね。けれどそっちでも強硬的な意見が強いでしょう」
「はい。特に金内相が強く主張しておられます。エウロパと戦うべきだと」
「彼女が」
「そうなのです。これは由々しき事態だと。エウロパを討つべきだと主張していますよ」
「金内相が考えもなしにそんなことを言うとは思えないわね」
「はい。おそらく何か考えがあってのことでしょう。おそらく連合にとって何かメリットがあることかと」
「メリット」
 伊藤はそれを聞いて暫し考え込んだ。
「こう言っては何だけれどエウロパと連合の戦力差はかなりのものがあるわよ」
「はい」
 彼は答えた。
「それで得られるものといえば何かあったかしら」
「彼女はバチカンについて色々と話していますね」
「バチカン!?」
「はい、教皇がエウロパにあるから今回の事件は起こったのだと。それをなくすにはどうすればいいか」
「バチカンをこちらに持って来るしかないわね」
「はい。内相はそれを強く主張しています。まずは外交交渉を行うべきだと言っていますが」
「エウロパがそんな要求飲む筈もないわね」
「それはわかっております。その時に軍を動かすべきだと」
「そちらではそれに対しての支持あどうなの?金内相の考えには」
「高いですね」
 八条は答えた。
「バチカンが利用されたのは事実ですし。閣僚の殆どが彼女に賛同しています」
「君はどうなの?」
「私ですか」
「ええ、そうよ」
 伊藤は電話の向こうで頷いた。
「この件についてはどう考えているのかしら」
「そうですね」
 八条は一呼吸置いてから話をはじめた。
「私はやはり今回の件は由々しき事態だと受け止めています。至急に何らかの対策を講ずるべきです」
「じゃあ金長官とは大体同じなのかしら」
「それは少し違います」
 しかし彼はそれには首を横に振った。
「私は彼女とは少し考えが違います」
「というと」
 伊藤はここで問うた。
「戦争は避けたいと考えております」
「あら、意外ね」
 金はそれを聞いてくすりと笑った。
「国防相が穏健派だなんて」
「職務は関係ありませんよ」
 八条はそう返した。
「これは私個人の考えです」
 彼はそう断ったうえで話をはじめた。
「今我々にはエウロパに関する情報があまりにも少な過ぎます」
「エウロパの地理や内情に情報が少ないということね」
「はい。例え幾ら国力差があろうともこのまま侵攻しても苦戦は免れません。地の利は彼等にありますし」
「当然彼等もそれを利用してくるでしょうね」
「ええ。ですから外交交渉が決裂してすぐの開戦は止めるべきです」
「わかったわ」
 彼女はそれを聞いてまた頷いた。
「君の考えはよくわかったわ」
「有り難うございます」
「ただね」
 だが伊藤はここでまた言った。
「情報は集め方が色々あるわよ。確かに私達はエウロパについての知識は少ないけれど」
「何か御考えが」
「ないわけじゃないわね」
 伊藤はここで微笑んだ。
「エウロパに近い国なら結構知っているんじゃないかしら」
 電話の向こうでそう言って微笑んでいたのだ。
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