第三十部第二章 茶は一つではないその十
「その時は華々しくとも最後には無残な結果になるものだ」
「その通りです」
そして彼も主席である彼の言葉に頷いてみせた。
「常道になければそれは生きられるものではありません」
「それは生物の進化と同じか」
「進化とですか」
「辿る道は全く違うがな」
まずそれは前置きするのだった。
「しかしだ。それでもだ」
「常軌を逸した生物は長くは生きられない」
「奇抜なのもいい」
まずはそれは肯定する。
「しかしそれが極端になってしまえば」
「それによって滅びるというわけですね」
「戦争もまた然りだ」
戦争に話が戻った。
「常軌を逸した戦い方は何時か必ず敗北する」
「それも悲惨な形で、ですね」
「補給を忘れればどうなるか」
オムダーマン軍がとりわけ重要視していると思われるその補給に関して語られた。
「弾薬も食料も燃料もなくては」
「そして整備を受けなくては」
「戦える筈がない」
答えはすぐに出た。
「そういうことだな」
「その通りです。オムダーマン軍、いえ」
ここで彼は言葉を言い換えた。より実直にわかり易く述べたのだった。
「アッディーン副大統領はそれがよくわかっていますね」
「サラーフとの戦いでそれが非常によくわかったな」
西方を統一した時の戦いであった。アッディーンにとっては英雄物語のページの中にある話だ。彼の輝かしい勝利の歴史の中にあるものだ。
「彼はあの時補給路を守り整備を整え」
「それからサラーフと戦いました」
「焦土戦術を執られたがそれを無力化させてみせた」
補給を整えてである。焦土戦術は確かに有効なものだが所詮は人が行うものである。やはり解決し対抗する方法が存在しているのである。
「それを見ても補給を重視しているのがわかる」
「そうです」
クリシュナータのその言葉にはっきりと頷いてみせてきた。
「そうしたものも見ていきますと」
「天才だ」
またこの言葉が出た。
「アッディーン副大統領は。戦術戦略の天才だな」
「少なくとも名将ではあるでしょう」
今度は名将という言葉が出た。歴史において数多く出て来たこの言葉が。この言葉は戦乱の中においてこそ出て来る言葉である。
「それもかなりの」
「名将か」
クリシュナータは名将という言葉を聞いて考える顔になった。それからまた口を開くのだった。その考える顔で、である。深い思考の顔であった。
「思えば今までのサハラの歴史でその言葉はよく出て来たな」
「はい」
それだけ戦乱が激しかったということだ。千年の間戦乱が絶えた年はない。それがサハラであるのだ。常に何処かで戦いが行われていたのだ。
「中には天才もいた」
「天才と呼ばれる者もまた」
「そうだ。多くいた」
これは非常に大きな意味を持っていた。
「多くな。しかしだ」
「その誰もが統一を果たせませんでした」
「ある者は志半ばにおいて倒れ」
戦死である。この場合は。
「ある者は病に倒れた。そしてそれでいつも元の木阿弥になった」
「英雄の死の度に話は元に戻りました」
「そうだ」
今の彼の言葉に対して頷いてみせた。
「その通りだ。サハラはそれの繰り返しだ」
「今までも三国状態になったことはありました」
「何回かな」
それだけ統一に近付いたということだ。サハラの歴史においてはこれで遂に統一されると判断していいケースが幾らかあった。しかしそれが適うことはなかったのだ。
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