第七部第五章 新たなる戦雲その三
「私が案内したのではありません。神が導かれたのです」
「ふふふ、そうでした」
枢機卿は腹に何かあるような笑みを浮かべた。
「我々が今ここにいるのも神の御導きですな」
「そういうことになりますね」
神父はそれに応えた。
「もうすぐここに神に導かれた僕達がやって来ますよ」
そう言うと扉がまた開いた。
「ほら」
神父はそちらに顔を向けた。するとそこにはエウロパの諜報員の一人が立っていた。
彼等は次々にやって来る。そして中に入って来た。やがてかなりの数が集まって来た。
「これで全員ですか」
「はい」
ステッラは教会に入った者達の顔を見回してから枢機卿に答えた。
「これで全員です」
「ならばよろしい」
やはり腹に何かあるような笑みであった。
「さて皆さん」
枢機卿は彼等に語りかけた。
「全てはよろしいでしょうか。箱舟に乗ることは出来ますね」
「はい」
彼等はそれに頷いた。
「その為にここに来ました」
「ならばよろしい」
枢機卿はまた微笑んだ。
「それでは行きましょう。いいですね」
「はい」
彼等は枢機卿に導かれ奥に向かおうとする。だがその時であった。
「何処に行くのですか?」
誰かが問うた。
「はて、おかしなことを」
枢機卿はそれを聞きおかしそうに答えた。
「我等の行く場所は決まっております。そう、それは」
「エウロパだと言いたいのだな」
その声は急に険しいものとなった。その時であった。
教会の扉が開いた。そしてそこから多くの制服及び軍服に身を包んだ男達が入って来た。
「なっ・・・・・・!」
エウロパの諜報員も枢機卿達もそれを見て驚きの声をあげた。彼等の先頭にはあの男がいたのだ。
「ドトール長官!」
「私がここにいる理由はわかっているな」
彼は冷静な声で彼等にそう語った。その顔も冷静であった。
「ウヌヌ・・・・・・」
それに対してエウロパの者達は冷静さを失おうとしていた。その顔が歪んできた。
「さあ、答えてもらおうか」
ドトールはまた彼等に言った。
「ここに枢機卿殿と諸君がいる理由をな」
「クッ・・・・・・」
「逃げようとしても無駄だ」
彼は枢機卿と諜報員達に対してそう言った。奥から今度は軍服の一団が出て来た。ンガバとアラガルである。
「これで逃げ道はない」
ドトールは詰めるように前に出る。
「さあ、どうする」
「どうするか」
彼等は血走った目をドトールに向けた。
「もう逃げる場所はない。大人しく手を上げれば捕虜として扱う」
「枢機卿、貴方も聖職者として扱わせて頂きます。よろしいでしょうか」
「・・・・・・わかりました」
彼は止むを得ず頷いた。そして手を預けた。
「行くか」
「はい」
ドトールの指示に従い出ようとする。だがここでステッラは手錠をかけられる寸前で逃げた。
「しまった!」
彼女はすぐに逃げる。囲みを突破して裏から逃げる。
「追え!」
「逃がすな!」
すぐに追う。だが彼女の足は速い。そう簡単には捕まりそうにもなかった。
彼女は教会を出た。追う連合の警官や軍人達もだ。その先頭にはンガモがいた。
捕まりそうになる。だがステッラはここで法衣を脱ぎ捨てた。そしてそれを警官や軍人達に投げつける。
「うわっ!」
ンガモは咄嗟にそれを避けた。だが他の者は違っていた。それいとらわれ足が鈍った。ステッラはその間に逃げ去っていく。信じられない速さであった。
「まずいな」
ンガモはそれを見て呟いた。
「こうなったら切り札を出すか」
彼はそう言った。そして走りながら腰のトランシーバーを取り出した。
「私だ」
トランシーバーを口元にあてる。
「今ステッラが逃げている。わかっているな」
「はい」
トランシーバーの向こうから返事が返って来た。
「丁度そちらに向かっている。いけるか」
「お任せ下さい」
トランシーバーの向こうの声が答えた。ンガモはそれを聞いて締まった顔で頷いた。
「頼むぞ」
「はい」
これでトランシーバーを元に戻した。そして前に目を戻す。
「どうなる」
ステッラはやはり速い。そのまま彼等を引き離すかと思われた。こちらの銃撃は照準が定まらない。それを見越して彼女は道をジグザクに歩いていた。
そのまま逃げられるかと思われた。しかしその時であった。
不意にその動きが止まった。そして前に転がり倒れた。
「やったか」
ンガモはそれを見て言った。それから後ろにいる者達に顔を向けた。
「捕まえるぞ」
「はい」
彼等はそれに従い前に出た。そして倒れるステッラを取り囲んだ。だが彼女はもう事切れていた。
「死んでいます」
「何っ!?」
ンガモはそれを聞いて声をあげた。
「どういうことだ」
彼はステッラの側に来た。見れば銃撃を受けたのか負傷している。しかしそれは右足であった。急所は外れている。
警官達が警戒しつつステッラを見る。口を開ける。そこには黒い液体があった。
「毒のようですね。おそらく口の中にカプセルがあったのでしょう」
「カプセルか」
「はい。よくある話です。諜報員には」
「そうだな」
彼もそれはよく知っていた。二十世紀にはとりわけよくあった話である。
「おそらくこれからの取調べで情報が漏れるのを怖れたのでしょう」
「そして自ら死を選んだのか」
「そのようです」
「ふむ」
ンガモはその精悍な顔を考える顔にさせた。
「敵ながら見事という他はないな。自らの命を絶って情報を守るとは」
「はい」
警官や軍人達もそれに頷く。
「だが既に他の諜報部員達は抑えている。これでかなりの情報がわかるぞ」
「そうですね」
周りの者はそれに答えた。
「苦労した介はありました。今まで」
「ああ」
ンガモはその言葉に頷いた。
「これでとりあえずは終わりだ。だが」
彼は言葉を続けた。
「次のはじまりなのだろうな。軍人の仕事はいつもそうだ」
そう言うと教会に戻った。ステッラの亡骸は部下達により教会に運び込まれた。
こうして戦艦の調査を行ったエウロパの諜報員達はその全てが捕らえられた。また、それに協力にしていたロマーニ枢機卿も拘束され、取調べを受けることになった。その結果恐るべきことがわかった。
人気サイトランキング
小説・詩ランキング
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。