第二十九部第五章 北上開始その十九
「これを使ってな」
「しかし。よく考えたものです」
ガルシャースプは既に後方に位置するようになっているそのコロニーレーザーについて述べた。これはジェルメ攻略後そこを拠点としながら基地の整備や補給を行いながらアッディーンの指示によりオムダーマン軍が用意してきた。要塞攻略の為の兵器なのである。
「こうしたものを。よく」
「要塞攻略に必要なものは何か」
アッディーンは言う。
「攻略できるだけの多大な兵力と」
「そして火力ですか」
この場合は攻撃力、衝撃力のことである。これは兵力もまた同じであるが。
「そうだ。その火力を用意したのだ」
「それこそがこのコロニーレーザー」
「オムダーマン軍、いやサハラの艦艇は艦隊戦を極めて重視している」
それが伝統である。
「とりわけ我が軍はな」
「それが我が軍の強さでもありました」
多くの艦隊戦での勝利により今を築き上げてきた。何を隠そうその代表こそがアッディーンである。彼の勝利の殆どが艦隊戦によるものであるのは言うまでもない。
「そうですね」
「そうだ。しかしだ」
それが長所であり短所でもあるのだ。諺のままであった。
「その分要塞戦には弱いな」
「そうですね。それは確かに」
「ブラーク攻略は言うならば奇襲だったしな」
サラーフの首都攻略戦の時の話である。この戦いも遥かな過去になってしまった気がする。しかし時間的にはほんの昔のことでしかないのだ。
「あの時もし艦隊による攻撃を仕掛けていれば」
「どうなったでしょうか。やはり」
「そうだ。多くの損害を出していた」
これはもう目に見えている未来であったのだ。
「確実にな」
「ですね。そうとしか考えられません」
「それを防ぐ意味もあった。そしてそれは上手くいったが」
「はい」
その時はだ。しかしそれでオムダーマン軍の弱点が解決されたわけではなかったのだ。無論これはサハラの軍事形態全体に言える話であるが。
「今回はそうはいかない。だからだ」
「射程を教化したコロニーレーザーを用意したと」
「ヒントはあったのだ」
「ヒントですか」
「そう、ヒントはあったのだ」
ここでヒントがあったと言ってみせるのだった。
「連合軍の巨大戦艦があるな」
「ええ、あれですね」
その存在は連合軍の象徴ともなっている。巨大な規模を誇る連合軍に相応しい巨大戦艦としてだ。そうした意味で八条の政治的意図は成功を収めていた。ただ単に巨大な艦艇を建造させただけではないのだ。内外にそれを見せることによって連合軍の存在を示したいのである。外には防衛、内には結束の象徴としてである。こうした存在を象徴とすることは政治ではよくあることである。
「あの巨大戦艦の巨大砲を聞いて思いついたのだ」
「確かにあれはかなりの威力ですね」
その威力がどれだけのものかはガルシャースプも知っている。オムダーマン軍においてもその攻撃により数多くの勝利を収めたことを知っているのである。
「連合軍はまずあの巨大砲での攻撃からはじまる」
「確かに」
そこから砲艦やミサイル艦での攻撃だ。連合軍の攻撃はかなりマニュアル化しているのだ。
「その一撃でまずかなりのダメージを敵に与えているからだ」
「要塞も攻略していましたね」
「そう。テューポーンもまた」
今や連合軍に押収され連合本土に持ち去られているあの要塞もまたティアマト急巨大戦艦の巨大砲の一斉射撃により陥落したのである。あのクロノスでの戦いでの一場面だ。
「それを見て思ったのだ。要塞を攻略するにはこれが一番だとな」
「ですが我が軍には」
ここが最大の問題であった。ガルシャースプが今言うところがだ。
「巨大戦艦はおろかあそこまでの砲艦ミサイル艦も」
「ないな」
「そうです」
これもまた言うまでもない事実であった。
「ないからこそですね」
「そうだ。しかしないでは済まされない時もある」
それが今なのである。そういうことだった。
「その時にはな。こうした工夫が必要なのだ」
「ですね」
あらためてアッディーンの言葉に頷いた。
「だからこそ今こうして」
「なければ見つけ出すか作り出す」
それこそが工夫であった。
「そういうことだ。今回は上手くいった」
「はい。それで閣下」
ここまで聞いたうえでアッディーンに問うてきた。
「何だ」
「これは予定通りに使いますね」
「そうだ、第二次防衛ライン攻略でも使う」
それも今はっきりと言った。彼は最初からそのつもりでこのコロニーレーザー達を用意させたのである。そういうことであった。
「予定通りな」
「わかりました。それでは」
「さて、このまま突撃を続ける」
またしても指示を出した。
「要塞を突き抜けそして」
「撤退する敵部隊を捕捉し捉える」
「まずは気付かれるな」
隠密裏に動けということであった。
「通信を途絶し一気に敵の後ろに迫るぞ」
「はっ」
「それからだ」
ここまで述べてまた言うのだった。
「次の段階はな」
その次の段階に向けて兵を進める。アッディーンはさらに戦いを続けていく。オムダーマンの為に。そしてそれは己の運命を切り開く戦いでもあったのだった。だが彼は己の運命がどう切り開かれているかまではわかってはいなかった。それを知るのは神だけであった。
第二十九部 完
2008・3・1
人気サイトランキング
小説・詩ランキング
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。