第七部第四章 名将と老将その七
「撃て!」
カーシャーンの声が轟く。それと同時に道から無数のミサイルが放たれた。
「ヌッ!」
次の瞬間にはそのミサイル達は別働隊に向けて襲い掛かって来た。そして別働隊の艦を火球に変えていた。
「伏兵か!」
ハイヤーンはそれを見て思わず叫んだ。別働隊は側面から思わぬ攻撃を受け混乱状態に陥っていた。
「如何致しますか」
副官が青い顔をして問うてきた。
「別働隊をすぐに退かせよ。彼等の援護に回るぞ」
「ハッ」
友軍を見捨てることはできなかった。リヤド軍は彼の指示の下に別働隊の援護に向かった。そして攻撃を終えカーシャーンと合流したオムダーマン軍の左に来る。オムダーマン軍は彼等の艦首を向ける。
ここでリヤド軍はカーシャーン達が出て来た別の道の前を通ろうとする。しかしそれが間違いであった。
「今だ!」
そこにはラーグワート達の艦隊がいた。後方からその一斉射撃を受ける。
「うわっ!」
至近弾がホラズムを襲う。それにより艦が大きく揺れた。
ハイヤーンはそれでバランスを崩した。艦橋の壁に叩き付けられる。そして床に崩れ落ちた。
「ウググ・・・・・・」
「司令、御無事ですか!」
副官が駆け寄ってくる。彼もまた打ったのか頭部から血を流していた。
「大丈夫だ」
ハイヤーンはそう答えてゆっくりと立ち上がった。そして問うた。
「被害状況を知らせよ」
彼は司令である。この場合は艦隊全体の被害である。
「ハッ」
すぐに報告が入った。そしてそれが伝えられる。
「五千隻程が撃沈、もしくは大破された模様です」
「そうか」
彼はそれを聞いて頷いた。
「敵はどうしているか」
「我が軍への攻撃を終えた後そのまま突撃を仕掛けようとしております。如何致しますか」
「すぐに退け」
ハイヤーンは指示を下した。
「一個艦隊でその後方の敵を食い止めよ。そしてその間に主力は退き態勢を整える。それからその一個艦隊も合流せよ」
「わかりました」
その指示に従い動く。そしてオムダーマン軍主力から見て左斜め上に移る。ここで新手が姿を現わした。それは一つではなかった。
「何と!」
全ての道からオムダーマン軍の艦隊が姿を現わした。ハイヤーン達が通ってきた道以外の全ての道から姿を現わす。そしてそのままリヤド軍に向かって来る。
「下方よりエネルギー反応多数!」
「上からも来ます!」
敵からの攻撃が矢次早に伝えられる。そしてその直後に艦艇が炎に変わる。
「後方を敵が塞ぎました!」
「右もです!」
そして敵の動きも。それは包囲の形であった。
「司令、如何なさいましょうか!」
ハイヤーンに決断を問う声が艦橋にまで伝えられる。彼の目から見ても戦局は明らかであった。
「こうなっては致し方ない」
彼は苦渋に満ちた声でそう語った。
「撤退だ。後方の敵を突破するぞ」
「はい」
皆それに頷く。
「先鋒、そして後詰は私が務める。よいな」
「わかりました」
「では行くぞ。そして態勢を整え再び戦いを挑む!」
「ハッ!」
ハイヤーンの言葉はすぐに全軍に伝えられた。そしてそれに従い軍が動く。
ハイヤーンの直率する艦隊を先頭にリヤド軍は後方にいたオムダーマン軍に突撃する。そこにいたのはカトラナとラーグワートの艦隊であった。
「これはいかんな」
ラーグワートはその突撃を見て呟いた。
「道を開けよ。そして逃がしてやれ」
「退却させるのですか」
艦橋にいる参謀の一人が問うた。
「そうだ。勝敗は既に決した。今無駄に損害を出す必要はない」
見ればリヤド軍は全軍決死である。彼等の前に立ち塞がればどういうことになるか明らかであった。
「わかりました」
参謀はそれに頷いた。そしてラーグワートの艦隊はわざと道を開けた。
「あの場所だ!」
それを見たハイヤーンは全軍に再び指示を下した。そこにリヤド軍は雪崩れ込むようにして入る。そこから敵陣を突破する。
「全速力だ!一気に突っ切れ!」
「はい!」
ハイヤーンの指示が再び下る。リヤド軍は陣を突破してからもなお突き進む。そして彼等が来た道に入った。
後方にはオムダーマンの大軍が迫る。勝敗が決し、無駄な損害を防ぐ為に道は開けた。だが、だからといって追撃戦を止めるというわけではない。
少しでも敵を減らす、それは戦争において常識であった。追撃戦こそはその絶好の好機なのである。
「来たな」
この時既にハイヤーンは軍の最後尾に回っていた。
「よいか」
そして残る艦艇に指示を出す。
「最後まで彼等を止める。そして機を見て我等も退くぞ」
「わかりました」
残る数千隻の艦から了解の言葉が返って来る。
「我等の命、司令にお預けしました。存分に使って下さい」
「すまんな」
ハイヤーンはそれを聞き目を伏せた。
「だが命を粗末にはするな。生きて帰るのだ、カブールまでな」
「わかっております」
「ならばよい。ではやるぞ!」
「はい!」
彼等は入口に陣取る。そして後方に下がる友軍の状況を見つつオムダーマンの大軍に立ちはだかった。
「撃て!」
両軍のビームが放たれる。二つの光の束がぶつかり合い、そして戦場を彩る。
オムダーマン軍の攻撃も数を背景に激しいものであった。だが死兵と化していたリヤド軍の士気はそれにも勝っていた。彼等はオムダーマン軍を寄せ付けなかった。
それでもやはり限界があった。オムダーマン軍はその激しい抵抗にもかかわらず次第に距離を詰めてきた。
「司令、このままでは」
「わかっている」
ハイヤーンにもわかっていた。今どうするべきかを。
そして彼は動いた。一斉射撃を仕掛けたのだ。
「撃てっ!」
そこに留まる全艦に攻撃を仕掛けた。そしてそれでオムダーマン軍を退かせた。
「ムッ!」
オムダーマン軍はそれに動きを止めてしまった。そしてそれを見たリヤド軍は行動に出た。
「全艦撤退!」
急速反転を仕掛ける。そしてそれで戦線を離脱する。
その中にはハイヤーンもいた。だが彼は指揮官の務めか最後尾に陣取り指揮にあたっていた。そしてそれが裏目に出た。
オムダーマン軍が攻撃を再開する。そしてその中の一撃がホラズムを直撃した。
「グワッ!」
艦内に衝撃が走る。エンジンにダメージはなく、損傷こそ受けたが機動力は落ちてはいなかった。だが別のダメージを受けてしまっていた。
衝撃は艦橋も襲っていた。そしてハイヤーンはそこで再び全身を激しく打ちつけられてしまっていたのだ。
「グウウ・・・・・・」
「司令!」
艦橋の中は爆撃を受けたようになっていた。多くの負傷者が転がっていた。
副官がやはり来た。彼も右腕を骨折していた。
「大丈夫ですか!?」
「と言いたいのだがな」
ハイヤーンは口の端を歪めて笑ってそう答えた。
「残念だがそうもいかないようだ」
「えっ・・・・・・」
「これを見てくれ」
見れば破片が彼の胸に突き刺さっていた。そしてそれは左胸にあった。
「心臓だ。もうどうしようもない」
「司令・・・・・・」
「指揮権を副司令に委ねる。よいな」
「わかりました」
「私の最後の指示だ。是非頼むぞ」
「はい・・・・・・」
「そして陛下にお伝えしてくれ」
そこで大きく血を吐いた。だが彼は話を続けた。
「申し訳ありませんと」
「わかりました」
副官は頭を垂れていた。ハイヤーンはそれを見届けるとゆっくりと目を閉じた。そしてそのままゆっくりと息を引き取った。
こうしてリヤドの古将はこの世を去り天界へ旅立った。フェルダウス星系の戦いはそれで幕を降ろした。
ハイヤーンの死によりリヤド軍はこの星系から撤退した。三割程減らし、そしてそのまま兵を退いた。
勝利を収めたオムダーマン軍はそのまま兵を進めた。そして遂にその途上でリヤド側からの降伏の使者を受け入れたのであった。
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