第二十九部第四章 南部戦線の動きその十三
「それに加えて」
「それに加えて?」
「ティムールに対しての備えが乏しいのです」
八条が次に指摘したのはサハラの戦略構想におけるポイントであった。
「ティムールへの備えはアヤグーズ王国がありますが」
「アヤグーズ?ああ」
最初そう言われてもピンとこなかったがすぐに気付いたのであった。
「あの女王の治めている国ですね」
「アヤグーズのブルコルジ女王は一代の猛将。ですが彼女が敗れれば」
「守りはそれでなくなるのですか」
「少なくともかなり乏しくなります」
銀河を見ながらの八条の言葉であった。彼はその銀河にサハラでの三つの勢力の動きを見ていた。そうしてそれを金に対して語っているのだった。
「そのうえアヤグーズを陥落させられればそのアヤグーズを拠点にして攻めて来るでしょう」
「アヤグーズからですか」
「そうです。しかもティムール軍の動きは迅速です」
防衛拠点に乏しくしかもその拠点を奪われその敵の動きが迅速ならば。話はハサン側にとって実に厄介なものになるということであった。
「そうした諸事情を防ぐ為にも」
「彼等を先に倒すのですね」
「ハサンはそう決定したのです」
「成程」
ここまで聞いて遂に全てを理解したのであった。専門外のことを聞いていたがそれでも全てを理解したというのは金の頭脳の冴えの証明でもあったが。
「そういうことなのですか」
「はい。だからこそ彼等はまずはティムールを先に倒すことに決定したのです」
「わかりました。ハサンも彼等なりに考えていますね。見事です」
見事とまで評する。ここでは素直にハサンを褒めていた。
「さて。どうなるかを見せてもらいますか」
「ええ」
二人は言葉を交えさせた。
「それにより我々も動き方を変えますので」
「その間に長官は」
金はここでちらりと八条を見やった。
「備えを整えられて」
「万全にしておきます。予定通り」
「御願いします。そちらは」
「はい。それでは」
ここまで話すとすっと席を立つのであった。
「私はこれで」
「帰られるのですか」
「用件はもう終わりましたので」
「そうですか」
金はその言葉を聞いて少し曇った顔になるのですか。
「それではまた」
「はい。それでは」
「ただ。長官」
ここで金は思い切った感じで八条に顔を向けるのであった。
「何か?」
「あのですね」
その眼鏡をかけた整った知的な美貌に珍しく躊躇いを見せながらも声をかける。
「もう少し時間はおありでしょうか」
「時間ですか」
「そうです」
おずおずとした様子でまた声をかけた、
「宜しければですが。もう少し」
「もう少し?」
「仕事の打ち合わせを」
「!?」
八条はそれを聞いて顔を顰めさせる。そのうえでまた金に対して述べるのだった。
「仕事のですか」
「そうです」
その目を泳がせながらの言葉であった。
「まだ。忘れている部分があるかどうか」
「ああ、そうですね」
八条は立ち上がったままで納得した顔で頷くのであった。
「忘れていては二度手間になります。そうなれば厄介になりますね」
「はい、ですから」
また必死な声になっていた。
「御願いできるでしょうか」
「わかりました」
金の真意には何一つ気付くことなく頷くのであった。
「それでは御願いします」
「有り難うございます。それではですね」
嬉しさを必死に隠す様子が見えているがやはり八条はそれには気付かない。いそいそと立ち上がって部屋の棚からお菓子を出す金を見てもおかしいとも思わないのだ。
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