第七部第四章 名将と老将その四
「既にこれは二十世紀までですと充分に宣戦布告の理由となります」
「確かにそうですが」
ちなみに連合内においては産業スパイが主流である。各国は自由貿易協定や通貨統合の中で互いの科学や産業に対して水面下で情報収集を行っている。発見された場合には当然多額の賠償金等の重いペナルティが課せられる。だが大国はこうした事態には知らぬ存ぜぬを貫く例が多い。そうした産業スパイを好むのが大国であるので話はより困難なものとなっているのが現状ではある。
しかしエウロパのスパイはまた話が違う。彼等は敵対勢力のスパイであり、連合内部の問題ではない。到底賠償金等で済む話ではないのだ。
「勿論彼等も頑強に抵抗するでしょう」
「それはそうでしょうな」
バチカンといえば絶対の権威である。それはこの時代においても変わることがない。連合と比して圧倒的な国力差があるエウロパの誇りの一つでもあるのだ。連合のカトリック教徒達はその総本山に行くことが出来ない。そうした状態は連合にとっては歯軋りすべきことの一つであったのだ。
「ですがバチカンを連合内に移動させることができれば」
「少なくともエウロパはその諜報員を侵入させるルートを確実に失います」
「そして連合内のカトリック教徒達は満足する結果を得られる。そして彼等の移動で観光、旅行業界も盛況することでしょう」
「そこまで考えておられたのですか」
これにはアッチャラーンも目を瞠った。
「はい、当然です」
彼女の様子は相変わらずであったが。
「彼等もその後で独自に教皇を立てるでしょうがそれはあちらの問題です。それについては我等は関知することはできは
しません」
「はい」
「ただエウロパとの戦争になっても彼等を滅ぼすことは得策ではありません」
「それは何故ですか」
「彼等とは長い対立の歴史があります。最早互いに相容れぬ仲となっております。今彼等を連合に組み入れたところで」
「一千億の不穏分子を抱え込む結果になると」
「そういうことです。そうなれば問題は容易ではありません。勝利を収めたとしてもエウロパの領土は一寸たりとも手に入れるべきではありません」
「わかりました。そういうことでしたら」
彼はそれに同意した。実は彼も彼女と同じ考えであったがここはあえて彼女の聞き役に徹したのである。それも彼のやり方の一つであった。
「ステッラの後の計画も考えておきますか」
「是非とも」
金はそれに同意した。
「お願いします」
「わかりました」
アッチャラーンは快諾した。これで話は大体終わった。
「それではこれで」
「あ、お待ち下さい」
彼はここで呼び止めた。
「何でしょうか」
「そろそろ三時ですが。如何なさいますか」
「そうですので帰らせて頂きます」
金はそう切り返した。
「帰って内務省のスタッフとお茶をしなければならないので」
「そうでしたか」
「はい。今日はパンケーキだとか。これでも楽しみにしております」
やはり甘いものには目がないようである。答える声が普段のそれとは全く違っていた。
「それでしたら」
アッチャラーンも引き止めることはしなかった。
「はい」
そして金は別れの挨拶を済ませ内務省に戻った。やはり甘い物となると様子が変わるのであった。
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