第二十九部第四章 南部戦線の動きその三
「その人類を獣の餌とするつもりなのだ」
「今度は獣なのか」
「そう、獣だ」
またしても予言の定番である。なおシャバキの言う獣とはそれこそ数え切れない程存在している。黒髭と同じで何匹いるかわからない。同じ本でも無数に出たりしている。
「獣の餌となるのは」
「どれだけいるんだい?」
「穢れを知らない男女以外は全員だ」
「じゃあ連合の殆ど全員だな」
人間なぞというものは皆大なり小なり穢れているものだ。完全に穢れていないとすればそれこそ赤ん坊位である。
「いないんじゃないか、それだと」
「いや、いる」
しかしシャバキの主張は続く。
「助かるのは六六六六人だ」
「連合全体でそれだけかい」
しかも何故か六がここでも四つ続いている。シャバキは六という数字が余程好きらしい。他に好きな数字は十三である。不吉だと本人は恐れているにしろだ。
「そう、それだけだ」
「また随分大変だね」
「しかし最後にアトムは滅ぶ」
これは確実なのだという。
「一人の救世主によって。黒髭も獣も」
「救世主か。誰だい?」
「それは西だ!」
また叫ぶ。
「西から出るのだ。その救世主は!」
「西っていうと」
看守が考えたのは連合の西部である。ところが相手はシャバキだ。話が奇想天外なとてつもない方向に向かうのもまた当然のことであった。
「マウリアにいる皇帝」
「皇帝!?」
救世主からまた随分と世俗的な話になったと思った。
「皇帝が何かするのかい?」
「獅子が見える」
彼には見えるらしい。なお他人には絶対に見えない。ひょっとしたら何か悪質な薬なり悪い酒を飲めば見えるのかも知れない。そうした類だ。
「その獅子がアトムも獣も倒し」
「それで世界が救われるのかい」
「いや、駄目だ」
結局駄目らしい。
「俺には見える。そ・・・・・・そうか!」
「話が凄い破天荒になってるな」
最初からそうであるがグレードアップしてきているのを感じた。
「どうなるやら」
「わかったぞ!その皇帝こそが獣なんだ!」
奇想天外では済まない話の流れだった。脈絡も何も最早あったものではない。
「危険だ!サハラだ!」
「マウリアじゃなかったのか?」
そんな些細な設定なぞシャバキにはどうでもいいのだ。彼の脳内ではそんなことは考慮するに値しないことでしかない。
なおシャバキは過去を決して振り返らない男である。一月前に巨大ブラックホールで人類は滅亡すると言ったかと思うとその月には他の知的生命体のロボットにされると主張する。彼にとって過去とは最早あってないが如きものだ。過去は何でもない存在なのだ。
「サハラに出て来るその男を止めろ!」
「誰をだよ」
「七つ頭の竜だ」
また予言に定番のキャラクターが出た。所謂サタンである。
「あの赤い竜が迫り来る。連合を飲み込むつもりだ」
「連合をねえ」
冷静に考えなくても有り得ない話だった。
「二千億の人口で」
「ああ」
統一してもサハラはそれだけだ。
「四兆の連合をかい。深海魚みたいな胃袋なんだな」
「そう、深い海の底から来る」
今度はラグクラフトまで入って来た。無意味な方向には極めて博識で余計な教養だけ多いシャバキであった。
「あの男を何とかして抹殺しなければ連合は」
「終わるのかい」
「見える、ハーケンクロイツが」
またまた予言の定番が出て来た。
「ヴォストークもか。そうか、サハラの正体はナチスやソ連だったんだ」
「何でそうなるんだろうな」
言うまでもなくサハラはイスラムだ。間違っても宗教に対して否定的な全体主義の流れを受けてはいない。サハラにおいてはイスラムを否定しては何も存在できないのだが。
「危険だ。サハラを倒さなくては」
教皇のことは完全に忘れている。とりあえずは。
「さもなければ連合の人口は千一まで減ってしまう」
「六六六六じゃなくてか」
「六六六六!?何だその数字は」
ついさっき自分で言ったことなぞ最早遠い彼方であった。
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