第二十九部第二章 屈辱の記憶その二十三
「ロシアがな」
「あの国がですか」
「そうだ。ロシアと我が国の関係は実に険悪になっていた」
簡単に言えばロシアの勢力圏とイギリスの勢力圏が各地で隣接していたのだ。それがそのまま各地での対立につながっていたのである。イギリスにとってロシアをどうにかすることが重要な外交課題になっていたのである。そこで日本が目に入ったというわけである。
「日本と同じくな」
「それが世界規模になったもので」
「それを考えるとイギリスも切実だったのですね」
「そうだ。だからこそ日本との同盟を選んだのだ」
そういうことなのであった。
「日本にとっては想像もできないことだったがな」
「!?それは何故」
「あの日本が」
「今の日本とは違う」
一国でエウロパに匹敵する力を持っている日本ではないのだ。当時の日本は。
「当時の日本は小国だった」
「おっと、そうですな」
「そういえば」
スタッフ達もここで気付いた。
「ロシアの十分の一でしたな」
「それを考えれば」
「そうだ。その日本が世界の覇権を握るイギリスと同盟を組む」
当時としては考えられない話だったのだ。
「誰もが驚いた。日本でさえも」
「日本でもですか」
「彼等は考えたのだ」
ここでギルフォードは言うのだった。
「自分達のような小国がイギリスと同盟を結べる筈がないとな」
「それは謙遜ではなく」
「己の力を見たうえでだ」
そういうことであった。当時の日本は何も己を卑下していたのではない。己とイギリスを正確に見極めたうえでこう考えていたのである。
「しかもだ。彼等はアジア系だな」
「そうですね」
「今でこそかなり混血していますが」
今連合ではかなり混血が進んでいる。純粋なアジア系も白人も黒人も殆どなくなってしまっているのだ。だから肌が黒いアジア系や白人の顔の者もいれば金髪の黒人もいたりするのだ。実はこの混血もまた連合の者達がエウロパの者達を馬鹿にすることの一つになっているのである。混血を全くしない差別主義者だというのである。混血したくともできない彼等の事情はここでも全く無視して馬鹿にしているのである。
「当時は純粋なアジア系でしたな」
「そういえば当時アジア系は」
「そうだ」
ここでもう一つの問題が出た。
「アジア系はヨーロッパ系に比べて差別されていた」
「所謂白人至上主義ですな」
「その通りだとも思いますが」
ここでは本音が出た。実際のところ彼等は自分達が最も優れていると信じているし己の白い肌はその証だと思っている。これはエウロパだからこそ思えることであるのだが。
「当時はそれが確固たるものだった。いや」
「いや!?」
「絶対のものだったのだ」
そうした時代だったのだ。白人こそが世界を正しく導く存在だと言われていたのだ。なお非常に面白い話であるが知能指数の検査をしても進化を調べてもアジア系の方が上にあるとされてきた。しかも今連合においては人種や混血による知能指数の差は全くない。結局のところ同じ人間なのでその能力にも然程大きな差がないというわけだ。とどのつまりは人種論というものは何の根拠もないものでしかないのだ。
「そのアジア人国家の日本が白人国家の頂点にあるイギリスと手を結ぶ。それはやはり」
「夢の様な話ですか」
「イギリスにはイギリスの都合があった」
これは大前提である。やはりロシアを見据えてのことだ。
「アジアでの権益を守ってくれる存在も必要だったしな」
「それが日本だったと」
「日本にしてみても悪い話ではなかった」
むしろ渡りに舟である。強国ロシアと対峙するにあたりまたとない友邦が出て来たのであるからだ。しかもそれが世界に覇権を唱える国家である。
「しかし。信じられるかどうかというとそれは」
「別問題というわけですね」
「だから同盟締結までにも色々あった。それでも結ばれたがな」
「そうなりましたか」
「それは日本にとって非常に有益な外交であった」
何しろロシアの力を各地で抑えていてくれているのだ。有り難くない筈がなかった。日本にとってはロシアの力を少しでも削いでおかなければならなかったからだ。
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