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第七部第四章 名将と老将その一
                                 名将と老将
 ディカプリオが技術部と協同して作成したその偽の戦艦に関するデータは意図的に流された。それは何時しかエウロパの上層部にも届いていた。
「あのティアマト級をも凌駕する巨大戦艦だと」
 ラフネールはそれを最初に聞いた時思わず眉を顰めさせた。
「本当の話か」
「はい、ステッラからの報告です。間違いはないかと」
 豪奢な軍服とマントに身を包んだ白いものが混じった黒髪に豊かな頬髯をたくわえた姿勢のいい初老の男が彼に答えた。エウロパ国防相であるルードヴィッヒ=ヨアヒム=フォン=シュヴァルツブルグである。階級は元帥である。エウロパでは現役の軍人であっても大臣に就任することができるのである。ここが連合と違う点である。連合はあくまでもシビリアン=コントロールの中にある。従って国防長官も大統領も文民である。
「そうか」
 ラフネールはそれを受けて頷いた。
「ならば確かな話だな」
 彼はステッラを完全に信頼していた。だからこそこう言ったのである。
「如何致しますか」
 シュヴァルツブルグはここでまた問うた。
「調査させますか」
「無論だ」
 ラフネールの言葉に迷いはなかった。
「すぐに指示を出すようにな」
「わかりました」
「そしてこれは彼女だけではない」
「と言いますと」
「今連合に入っている殆どの情報部員にも伝えるようにな。この巨大戦艦に対して全力で以って情報を収集せよと」
「わかりました」
 シュヴァルツブルグはそれを受けて頷いた。
「連合がまだ巨大戦艦を建造にかかるとは思わなかったがな」
「はい」
 それはシュヴァルツブルグも同じ考えであった。
「一体何の目的で建造するか、その真意まではわからない。しかしそれが我々にとって脅威であることには変わりがない」
 脅威である、それこそが問題であった。やはりそこには連合とエウロパの如何ともし難い国力差があった。彼等はそれを嫌という程感じ取っていた。
「出来れば建造途中に破壊したいが」
「それではそう伝えますか」
「うん、頼むぞ」
 ラフネールはそれを認めた。
「それでは決定だ。すぐにステッラ他全ての連合内に潜伏している諜報部員に指令を出すように」
「ハッ」
 巨大戦艦についての調査を行えと。そして必要とあらば破壊せよ、とな」
「わかりました」
 シュヴァルツブルグは敬礼した。こうして彼等の方針は決定した。すぐにステッラ達に指示が下された。
 それを受けたステッラ達はすぐに行動に移った。そして調査を開始した。
「最近国防省へのハッキングが多いそうですね」
 八条は統合作戦本部長の執務室でバールに問うていた。
「はい」
 バールはそれを認めた。
「ハッキング元はわかりませんが」
「そうでしょうね」
 それは至極当然のことであった。八条はそれには驚かなかった。
「しかしこれで一つはっきりとわかったことがあります」
「はい」
 バールはそれに応える。
「エウロパの工作員達が行動を開始したということです」
「我々の超巨大戦艦の建造計画についての調査ですね」
「そうです。どうやら揚げの香りに誘われたようですね」
「確かに」
 バールはその言葉を聞いて笑みを浮かべた。
「狐が揚げを好むというのは本当だったんですね」
「日本の狐は。エウロパの狐はむしろ鳥だと思っていましたが」
「ははは、確かに」
 バールはまた笑った。
「しかし狐は頭がいい。そう簡単には捕まえることはできませんよ」
「わかっておりますよ」
 八条はにこやかに笑ってそれに応えた。
「だからこそ優秀な猟師達を用意したのですよ」
「成程」
「それだけではありませんがね。トラップも用意してあります」
「狩りには細心の準備が必要ですからね」
 バールはここで感慨深そうに言った。
「そういえば」
 八条はここで気付いた。
「本部長はモンゴルでは昔ながらの遊牧生活をしてられたそうですね」
「ええ」
 バールはそれに頷いた。
「昔ながらといっても学校なんかには通っていましたが」
「そうですか」
「ただ基本的な生活は昔ながらのものでした。遊牧民の」
 モンゴルはやはり遊牧民であった。遊牧民の生活は昔から変わらない。馬に乗り羊達と共に生きる。宇宙に進出していてもそうした昔ながらの生活を送る者もいるのだ。
「いいものですよ。馬に乗り羊達と共に生きる。そして草原が家なのですよ」
「本当に昔ながらですね」
「学校といってもコンピューターでの通信でしたね。おかげで軍に入った時には驚きましたよ」
「宿舎にですか」
「はい。何から何まで生活様式が違いましたからね。けれどすぐに慣れました」
「そうですか」
 彼は通信教育で大学まで出ている。そして軍に入隊したのだ。入隊したのに深い理由はない。彼は長男なので家を出て独立しなくてはならない。モンゴルでは末っ子が家を継ぐ習わしである。兄達は次々に家を出て独立する。だが末っ子は残る。従って家を継ぐのは彼となるのである。
 家を出るにあたって彼は深くは考えていなかった。遊牧生活を送ろうかとも考えていた。だが通信教育先の大学の教授に他の職も薦められ軍はその中の一つにあったのである。
 受けたら合格した。元々連合では人気のある職業とは言えないので競争率は低かった。流石に名前を書いたら合格するということはなかったがそれでも彼は無事軍の入隊試験に合格したのである。それも幹部候補生としてであった。やはり大学卒業者ということが大きかった。
「そのまま遊牧民になってもよかったのですが」
「それでは何故軍に」
「いやあ」
 彼はここでまた笑った。
「星の中を動くのもいいかと思いまして。深い理由はなかったのです」
「そうだったのですか」 
 そして彼は実際に星の海を進むことになった。モンゴル軍の艦艇に将校として乗り込むことになったのだ。
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