第二十九部第二章 屈辱の記憶その十三
「だからだ。それよりもだ」
「それよりも。それでは」
「まずは力と誇りを取り戻すのだ」
彼が言うのはそこであった。
「まずはそれが肝心だ。いいな」
「その二つを」
「そうだ。怨念は過剰にはいらない」
そこをまた言って強調する。
「必要なのは何か」
「何かと言われますと」
「何でしょうか」
「力だ」
彼が欲しいのはそれであった。
「連合にもサハラにも対抗できる力が。我々には必要なのだ」
「それですか」
「そうだ。しかしだ」
だがここで彼はまた言うのであった。
「その力は我々には乏しい」
「残念ですが」
「それは確かに」
これに関してはギルフォードやスタッフ達だけではなくエウロパの者達全てがわかっていることであった。どうして一千億で四兆に勝てるというのか。
「しかし急にその力を身に着けることはできなくとも」
「徐々に、ですか」
「そうだ。何年かかろうともな」
ギルフォードが言うのはそこであった。
「いや、何世代何百年かかろうともだ」
「何百年ですか」
「そう簡単には力の差は埋まりはしない」
それがはっきりとわかっている言葉であった。
「だが。それの下地を作るのが私だ」
「閣下ですか」
「そうだ。エウロパは蘇る」
蘇るとまで言い切る。彼自身の手でだ。
「だからだ。いいな」
「はい、それでは」
「その為にも」
「怨みは確かに必要だ」
一応はその怨みも肯定する。しかしこれもまた彼の計算であるのだ。そうした意味で彼はあくまで政治家であると言える人物であった。
「それは何故かというと」
「力の糧になるからですか」
「人とは不思議なものだ」
あえて人間をこう定義付けてきた。
「プラスの力だけでなくマイナスの力も使って強くなるのだからな」
「怨みもまた、ですか」
「そうだ。それは事実だ」
臥薪嘗胆という言葉がある。古代中国の言葉であり言うならば連合の言葉であるのだがこの場合は彼等にも当てはまっていると言えた。
「過剰でなければそれもまたよし」
「しかし閣下はそれよりも」
「そうだ。誇りを使う」
彼の考えはやはりそこがメインであった。
「我がエウロパの誇りをな」
「そうですね。確かに」
これはスタッフ達もわかっていた。しかしここでその中の一人が言うのであった。
「しかしですね」
「言いたいことはわかっている」
鋭いギルフォードである。彼が問いたいことはわかっていた。
「誇りが打ち砕かれていると。そう言いたいのだな」
「はい、そうです」
そのスタッフも答えてみせた。その通りであるのだ。
「先の戦いの敗戦で失ったのは力だけではありません」
「誇りもまた」
他の者も言うのであった。
「失われました」
「散々に敗れた今」
「一度の敗北でか」
ここでギルフォードはいささかシニカルな言葉を述べるのであった。
「実に呆気ないな」
「そこまで破れましたから」
「やはり」
「確かに誇りというものは脆い」
ギルフォードはそれもまた肯定してみせる。まずは。
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