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第七部第三章 狐狩りその八
「ここは我等も守りを固める。よいな」
「わかりました」
「場所は第十惑星ハルーンだ。ここに集結するぞ」
「ハッ」
 ハルーンはフェルダウス星系においては最も大きな惑星である。軍事基地も充実しておりこの星系では人の居住も可能である。その為それなりに人口も多い。そして今現在の位置はハイヤッドと正反対の場所にあった。それが最も大きな要因であった。
「そしてそこから彼等の動向を注視する。よいな」
 ハイヤーンは言葉を続けた。
「先に到着されたとはいえ地の利は我等のものだ。案ずる必要はない」
 彼はここで部下の不安を取り除くことにした。
「時が来れば攻める。よいな」
「わかりました」
 その若い士官は再び答えた。
「では進軍を再開する。目標はハルーンとする」
「ハッ!」
 士官だけでなくその場にいた者全員が敬礼した。こうして彼等の方針は決定した。
 翌日彼等はフェルダウス星系に入った。そしてすぐにハルーンに向かいそこに集結した。そしてオムダーマン軍の先遣隊と睨み合いをはじめた。
「彼等は動かないか」
 それを見たコリームアは同僚の提督達と共に自らの乗艦マムルークの司令室で話し合っていた。
「そのようだな。どうやら無理な攻撃は避けているらしい」
 マトラがそれに応える。
「流石は歴戦の将と言うべきかな」
 アタチュルクは賞賛も含んでいた。
「だがこのままで行くとは思えんな」
「それはそうだな」 
 コリームアはマトラの言葉に答えた。
「おそらく機を見て攻撃を仕掛けようとするだろう。だがそれが何時かだ」
「とりあえず今の攻撃はないと」
「それは間違いないだろう」
 今度はアタチュルクに答えた。
「我々は今は守りを固めているだけでいい」
「ああ」
「それはわかっている」 
 アタチュルクだけでなくマトラもそれに頷いた。勇猛で知られる彼であるが攻撃するべきかどうかということはわきまえている。ただ勇猛なだけでは一軍の将は務まらないのだ。
「では今は長官が来られるのを待つしかないな」
「そうだな」
 マトラとアタチュルクはコリームアの言葉に頷いた。
「では今はこの星の陣を固めよう」
「ああ、わかった。分担してな」
「よし」
 こうして三人は守りを固めた。そして彼等はアッディーン率いる本軍の到着を待った。そのアッディーン率いる本軍が到着したのはそれから一週間後であった。その時には陣はある程度完成していた。
「来たか」
 ハイヤーンはそれを聞いて一言そう呟いた。
「そして今彼等はどうしている」
「集結後徐々にこちらに向かって来ております」
 副官がそう報告した。
「動いたか」
「はい」
「まさかとは思ったがな」
 彼の呟きは少々驚きが入っていた。地の利がない以上今動くとは思わなかったからだ。
「だがそれならかえって好都合だな」
「好都合ですか」
「そうだ。こちらもすぐに動くぞ」
 そう副官に言った。
「一個艦隊をここの守り、そして予備兵力として置く。九個艦隊で攻める」
「わかりました」
「彼等から目を離すな。隙を衝いて一気に撃破するぞ」
「ハッ」
 副官は敬礼で応えた。そして彼等もまた行動を開始した。これはアッディーンにも伝わった。
「やはり動いたか」
 彼はそれを聞いて笑った。
「ハッ、予想通りですな」
 後ろに控えるシンダントが彼に対して言った。
「ああ、これでいい」
 アッディーンはモニターに映し出される三次元地図を見ていた。それはこのフェルダウスの地図であった。ハイヤッド占拠の際に入手したものである。
「確かに我が軍には地の利はない」
「はい」
「だがそれならそれで戦い方があるのだ。今それを彼等に見せよう」
 そう言いながら目はモニターから離れない。
「予定の場所に到着したならば待機する。よいな」
「わかりました」
 シンダントはそれを受けて敬礼した。
「では全軍進撃だ。作戦通りに行くぞ」
「ハッ!」
 シンダントだけでなくその場にいた全ての者が敬礼した。そして彼等は勝利を目指し進軍を続けるのであった。

 南方で最後の戦いがはじまろうとしていた頃八条は自らの執務室においてディカプリオ元帥と話し合っていた。
「長官、その揚げですが」
 ディカプリオは彼の机の前に立ち報告をしていた。揚げとはステッラを誘い出す情報のことに他ならない。既に彼等の間でもそうした呼び方となっているのだ。
「これならどうでしょうか」
 そして彼は懐にあるファイルを差し出した。八条はそれを受け取り中を見る。
「ふむ」
 読みながら一言漏らした。それから顔を上げた。
「面白い揚げですね」
「はい」
 ディカプリオはそれに答えニヤリと笑った。
「これならあの女狐は絶対に来ますよ」
「そうでしょうね。何しろ以前躍起になって調査していたものの流れを汲んでいるのですから」
 見ればそのファイルは艦艇のものであった。しかもかなり大型のものである。
「そこを捕らえると。ンガバ少将とアラガル部長にもお話しましょう」
「是非とも。猟師にも知ってもらいたいですから」
「囮のことは」
「そういうことです。そしてドトール長官にも。ただあちらは内務省の管轄なので私からは何も言えませんが」
「それなら私からお伝えしておきますよ」
「お願いします」
「あと首相と内相にも。それはこちらでやりますから」
「はい」
「そして彼女の動きはまだ掴めていませんか」
「残念ながら」
 彼はここでその彫刻の様に整った顔を顰めさせた。するとその顔がまるで苦悶に歪む古代ギリシア彫刻の様になった。
「今何処にいるのかさえ。この連合にいるのはわかっているのですが」
 青と緑のその目からも苦悶の光が出されている。情報部長である彼にとっては悔しくて仕方がないことのようだ。
「仕方ないですね」
 彼のそうした感情は八条にもわかっている。彼はここでは宥めることにした。
「とりあえず今は彼女を捕らえることを考えましょう」
「はい」
 ディカプリオはそれを受けて頷いた。
「ではそうさせて頂きます」
「はい」
 今度は八条が頷いた。
「ではこれで失礼します。すぐにンガバ少将、アラガル部長と作戦会議に移ります」
「お願いしますよ」
「わかりました」
 彼は敬礼して部屋を後にした。そして八条だけが残った。
「とにかく今はステッラを捕らえることを優先させないとね」
 そう呟きながら先程ディカプリオから手渡されたファイルを再び手に取った。
「このままでは我が国の内情が全てエウロパに筒抜けだ。それだけは何とかしないと」
 呟きながらファイルの中を再び見る。そしてそこにある戦艦のデータに目を通す。
「ふむ」
 それはかなり精巧なものであった。技術部の協力を得て作り上げたものであるらしい。ティアマト級巨大戦艦の没になった設計図を改良して作り上げたものだという。ただしサイズはその巨大戦艦のそれも遥かに凌駕している。
「ここまで大きいと一見御伽話だな」
 その巨大さは八条も苦笑する程であった。
「しかしそれだからこそまさか、と思ってします。そうしたスパイの心理を読むのは流石と言うべきか」
 ディカプリオも伊達に情報部長を務めているわけではない。そうしたことも考えているのだ。
 八条はそのファイルを読み続ける。そしてある考えが浮かんだ。
「いや」
 だがここではそれを打ち消した。そしてファイルは自分の机の中にしまった。
 そして彼は仕事に戻った。ここでは彼はその戦艦のことを脳裏から消したのであった。
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