ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第二十九部第二章 屈辱の記憶その三
「この大英博物館のものを返せですとっ」
「その通りだ」
 憤る館長に侮蔑と冷酷を以って返すのだった。
「我々が本来の持ち主なのだからな」
「ふざけるのも大概にして頂きたい。散々罵倒を繰り返した後でそれとは」
「では。話を聞くか」
 ここで軍人達の後ろから背広の男達が出て来るのであった。その中には当然ながら女もいるが男達の方がやけに目立つ感じがしていた。
「弁護士としてはどうでしょうか」
「お話になりませんな」
 将官に弁護士と言われた男は眼鏡に手をやりながら冷たく答えてみせた。
「盗品であるのは明らかです。それはこちらの資料にもあります」
「そうですな」
 出してきたのは歴史書であった。イギリスの歴史についてのものだ。
「何時何処で何を盗み」
「それを大英博物館に保管したと。書いてありますな」
「まごうかたなき証拠です」
 弁護士はまた述べる。
「言い逃れのしようがないまでに」
「では法律的には問題ないと」
「はい、全く問題ありません」
「馬鹿なっ」
「そうだ、そんなことが許されるものかっ!」
 博物館員達はそれでも抗議するのだった。
「ここはイギリスだ。ならばイギリスの法律が適用されるのだ」
「そんな屁理屈は通用しないぞ!」
「また戯言を」
 弁護士の機械的な声がまた彼等を撃った。
「戯言だと!?」
「どちらが!」
「今ここは連合軍の占領下にあります」
 これは今更言うまでもない事実であったが彼はそれをあえて言うのであった。
「それならば」
「それならば!?」
「連合の法律が適用されます。それも中央政府の法がです」
「では今は」
「そうです。連合中央政府の法によりこの博物館にある連合各国のものを撤収する権利があります」
 またしても冷徹な声であった。
「よって法律的な問題は何もないのです」
「わかりました。それでは」
 将官はそれに応えた。これで勝負は決まりであった。
「後は貴方達の出番ですな」
「はい」
「お任せ下さい」
 今度出て来たのは如何にも学者然とした者達であった。博物館員達は彼等の姿を見てその素性が一体どういった者達であるのか即座に悟った。
「まさか貴方達は」
「はい、そうです」
「貴方達と同じです」
「学芸員か」
 館長は忌々しげに述べるのだった。
「まさか彼等まで連れて来るとは」
「我々は貴方達とは違いましてな」
 将官のゆがめた口の端が嫌になる程目に映る。
「略奪は決してせぬのです」
「略奪をしないと。詭弁を」
「詭弁と捉えられるならばそれで結構」
 平然と館長の呪詛の言葉を受け流してみせた。
「ですがそうではないのは事実です。それでは」
「わかりました」
「すぐに取り掛かります」
 学芸員達はすぐに自分達の仕事に取り掛かった。展示物一つ一つをチェックしだしたのである。兵士達がその警護にあたっている。
「さて、これで本物かどうかチェックして」
「連合に送るというわけですか」
「御安心を。エウロパのものには一切手はつけません」
 それは保障してみせるのであった。
「それも何があっても」
「信じよとでも仰るのですかな」
「何度も申し上げますが我々は略奪をするのではないのです」
 あえて言い聞かせるように念を押す。それは善意からではなく悪意によるものである。簡単に言うならば『嫌味』としてやっているのである。
人気サイトランキング site_access.php?citi_id=254078182&size=200小説・詩ランキングcont_access.php?citi_cont_id=343008101&size=200


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。