第七部第三章 狐狩りその七
「貴官は別行動をとってくれ」
「といいますと」
「陽動を行うのだ。情報戦を仕掛けてくれ。細部は任せる」
「わかりました」
彼はそれを受けて敬礼した。
「我が軍の動きが複数あるように思わせてくれ。よいな」
「ハッ」
「マトラ中将とアタチュルク中将も先にフェルダウスに向かうように。よいな」
「わかりました」
二人はそれを受けて席を立って答えた。
「他の艦隊は私と共にフェルダウスに向かう。だが進軍は通常のそれよりも速くする。よいな」
「わかりました」
皆それを受けて答えた。
「この戦いで全てを終わらせる。諸君の奮闘を期待するぞ!」
「ハッ!」
全ての者が席を立ち敬礼して答えた。こうして南方における最後の決戦がはじまった。
アッディーンの作戦通りまずはコリームア達の三艦隊が先発した。彼等は一路フェルダウスに向かった。
そしてベニサフとその艦隊は本隊とは別行動をとった。彼等は別のルートからフェルダウスに向かいその途中様々な情報を流した。
これによりリヤド軍の下に入るオムダーマン軍の動きに関する情報は膨大なものになった。彼等はそれに少なからず混乱した。
「どうした、そんなに多いのか」
それは総司令官であるハイヤーンにも伝わっていた。
「はい」
情報参謀は苦い顔でそれに答えた。
「通信妨害も多く。彼等の正確な動きが掴めない程です」
「それ程までか」
「はい、中には撤退をはじめているだの外交交渉を再開したというものもありまして。将兵の士気にも影響が出ております」
「そうか、それはまずいな」
彼はそれを受けてそう答えた。
「だが両方共今の時点では有り得ない話だ」
「はい」
これはわかっていることであった。オムダーマン軍が南方を完全に制圧するにはリヤド軍を破るしかないからであった。
「彼等は間違いなくフェルダウスに向かっている。それはわかるな」
「はい」
「その状況がわからないのが問題だ。しかし」
彼は言葉を続けた。
「先に到着するのは我々だ。ならば勝機は我々にある」
「はい」
彼等には地の利があった。それがある限り負ける気はしなかった。
「フェルダウスに入ったらすぐに迎撃態勢を整えるぞ。よいな」
「わかりました」
参謀は敬礼した。そしてその場の話は終わりリヤド軍は進軍を続けていた。だがここで新たな問題が起こった。
「それは本当か!?」
ハイヤーンは思わず問うた。
「はい、残念ながら」
副官が答える。今度は後方で民衆の反乱や特殊部隊の工作活動が見られるというのだ。
「如何致しますか」
「ううむ」
彼は暫し考えた。そして決断を下した。
「止むを得ん。まずは情報を集めよ」
「ハッ」
「それから決める。まずは進軍速度を緩めよ」
「わかりました」
こうしてすぐに情報収集が開始された。結果民衆の反乱も特殊部隊の工作もなかった。
「虚報であったか」
それが完全にわかったのは二日後であった。ハイヤーンはそれを知り落胆を覚えた。
「これはオムダーマンの情報工作でしょうか」
「有り得るな」
彼は参謀の疑念に答えた。
「だとしたら一杯食わされたわけだ。この二日のロスは大きいかもな」
「はい」
「だがまだ取り戻せる。進軍速度をさらに速めるぞ」
「わかりました」
こうしてリヤド軍は進撃速度をさらに速めた。だが二日のロスはやはり大きかった。そしてそれだけではなかった。
進撃する彼等に新たな情報が入った。同盟を結んでいたエクバル王国がオムダーマンに降ったのである。そしてその全軍がオムダーマン軍に組み入れられることとなったのだ。
「予想はしていたが」
それでも厄介な話に変わりはなかった。何故なら彼等は今の彼等の進行路の側方に位置していたからだ。そこを衝かれる怖れもあった。
そしてその危惧は当たった。エクバル軍はオムダーマン軍としてリヤド領に侵攻を開始したのだ。その数は僅か二個艦隊であったがそれでも侵攻して来たのに変わりはなかった。
それを見たハイヤーンはすぐに動いた。兵をすぐさまエクバル方面に差し向けたのである。
戦闘かと思われたが旧エクバル軍はすぐに兵を退いた。ハイヤーンはそれを見て兵を戻した。しかしこれは更なる時間の浪費となった。これが致命傷になった。
「閣下、大変です」
フェルダウス星系に進行を再開したリヤド軍にさらに都合の悪い情報が入って来たのだ。
「何だ」
ハイヤーンはそれでも落ち着いていた。静かに報告に来た若い士官に顔を向けた。
「オムダーマン軍がフェルダウス星系に来ました」
「そうか」
しかしそれでも彼は落ち着いていた。静かにそう答えた。
「その数は」
そしてそう問うた。
「三個艦隊。約三万です」
「先遣部隊か。どうやら全速力で来たな」
「どうやらそのようで。如何致しましょう」
彼等はこの時フェルダウスの入口にいた。星系への到着はもうすぐであった。
「決まっている。行くぞ」
彼はそう答えた。そうするしかなかった。
「わかりました。そしてオムダーマン軍は如何致しましょうか」
「攻撃するかどうかか」
「はい。我が軍は十個艦隊、対してあちらは三個艦隊です。勝算は充分にありますが」
「そうだな。今彼等はどうしている」
「第十三惑星ハイヤッドにて守りを固めに入っている模様です」
「そうか。では決まりだ」
「といいますと」
「放っておけ。今彼等に手出ししても無意味に損害を出すだけだ」
「左様ですか」
「そうだ。おそらく彼等は守りに徹するだろう。そうなれば我等も彼等の殲滅に時間を食う」
「はい」
「そしてそこに彼等の本隊が来る。そうなればどうなるか・・・・・・言うまでもないだろう」
「はい」
若い士官は頷いた。それは彼にもわかることであった。
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