第七部第三章 狐狩りその六
連合がそうして一人のスパイの捜査に躍起になろうとしている頃サハラではオムダーマンの南方進出が最後の段階に入ろうとしていた。
リヤド王国。南方で最大の勢力を誇る国であり、南方の最深部に位置している。この国の攻略なくしてはオムダーマンの南方制圧は終わらなかった。
今オムダーマン軍はアッディーンの指揮の下この国へ攻め込もうとしていた。それはリヤド側も察知しており既に迎撃態勢を整えようとしていた。
首都カブール。今ここにリヤドの主力艦隊十個艦隊が集結していた。彼等は今王宮に程近い軍港に集結していた。
「果たして勝てるだろうか」
王宮のテラスからそれを見る二人の老人がいた。二人共リヤドの濃緑の軍服を身に纏っている。そのうちの前に立つ白髪の男が後ろの男に対して問うていた。
「陛下」
後ろに控えるその男が口を開いた。
「勝てるだろうかではありません。勝つのです」
彼は強い声でそう答えた。
「勝つか」
リヤド国王コサイン七世はそれを聞いて呟いた。目はやはり軍港を向いている。
「はい、勝つのです。必ず」
彼はまた強い声でそう答えた。
「勝たなければ何も守れません」
「国もか」
「その通りです。このままオムダーマンに屈することはできません」
「そうだな。あの国から国土と民を守らなければならない」
「はい」
その老将はまた答えた。
「オムダーマンの侵略から国と民を守りましょう。それこそが我等の使命」
「それはわかっている。だが」
ここでコサイン七世の顔色が急に悪くなった。
「私は最早戦場に立てぬ。いや」
彼は顔色が悪いまま言葉を続けた。
「最早長くもないだろう。あとどれだけ生きていられるか」
「陛下」
「そなたが案ずることはない。だが」
「はい」
「ソホラーズ=ハイヤーンよ」
そして彼の名を呼んだ。
「そなたにこの国のことを託した。頼むぞ」
「わかりました」
彼はそれに頷いた。そして再び顔を上げた。
「必ずやオムダーマン軍を退けて御覧に入れましょうぞ」
「頼むぞ」
その声も土気色になっていくようであった。二人はそのままテラスから軍港に集結する艦艇を眺めていた。その艦艇が出撃したのはそれから数日後のことであった。攻撃目標はもう言うまでもなかった。
「リヤド軍が動いたか」
それはオムダーマン軍にも伝わった。アッディーンはその時リヤドの国境に入ろうとしているところであった。
「はい、今十個艦隊を率いて首都星系を発ったそうです」
ハルダルトが報告する。彼等は今艦橋にいた。
「そうか、遂にか」
アッディーンはそれを聞いて腕を組んだ。そしてまた問うた。
「そして今彼等は何処に向かっているのだ。攻撃目標は間違いなく我々だろうが」
「はい」
今度はハルシークが答えた。
「ですが彼等は我々に攻撃を仕掛けるのではなく迎え撃つつもりのようです」
「何処でだ」
アッディーンは問うた。
「今彼等はフェルダウス星系に向かっております」
「フェルダウス星系か。一体どの様な場所だ」
「はい、ブラックホールや超新星、赤色巨星等が入り混じったかなり複雑な星系です。地形の複雑さ、危険さではこの南方でも随一と言われています」
「つまり地形を利用して戦うつもりだと」
「そのようで」
「そうか」
アッディーンはそれを聞いて考え込んだ。
「わかった。すぐに各艦隊司令と参謀達を集めてくれ」
「わかりました」
こうしてアッディーンの指示通り司令と参謀達が集められた。艦隊司令はシャトルで来た。通信も出来るが盗聴を恐れて集めたのである。
「よく来てくれた」
アッディーンは旗艦アリーの作戦会議室で彼等を迎えた。
「ではすぐに会議に入るとしよう」
「はい」
提督と参謀達は頷いた。こうして話がはじまった。
「いよいよこの南方における作戦も最終段階に入った」
アッディーンはまずこう切り出した。
「リヤド王国が外交ではなく軍事による解決を選んだことはもう聞いていると思う」
「はい」
彼等はそれに頷いた。これはもう知っていることである。
「既にこちらに十個艦隊を派遣してきている。リヤドの主力と言っても過言ではない」
「ではその十個艦隊を退ければ南方における作戦は全て終わることになりますな」
ここでナクールが言った。
「そうだ」
アッディーンはそれに答えた。
「後は外交交渉に入るだろう。そして我がオムダーマンは南方を完全に手中に収めることになる」
「おお」
それを聞いた一同が声をあげる。
「だがそれには勝たなければならない」
アッディーンは声を引き締めた。
「そう、勝たなければな」
「はい」
皆それに首を縦に振った。彼等の顔も引き締まった。
「兵力においては我が軍は彼等の三倍だ。しかし」
アッディーンは言葉を続けた。
「彼等は戦場を選んできた。フェルダウス星系だ」
「フェルダウス星系」
それを聞いた何人かが声をあげた。
「そうだ。かない厄介な場所だそうだが。知っている者はいるか」
「いえ」
「かなり複雑な地形だとは聞いておりますがそれ以外は」
皆首を横に振った。西方にいる彼等がこの南方の奥のことを詳しく知っている筈もなかった。
「そうか。ならば仕方がない」
アッディーンはそれを受けてこう言った。
「既にリヤド軍はフェルダウスに向かっている。我々よりも先に到着することは明らかだ」
「はい」
「地の利は彼等にある。そして防衛態勢も整えているだろう。だがわかっているな」
「無論です」
アッディーンの言わんとすることはわかっていた。それがわからぬ彼等ではなかった。
「退くわけにはいかない。そしてだ」
彼の目が光った。
「まずは先に到着するのを彼等にしてはならない」
「はい」
彼等はその言葉に頷いた。
「進撃速度を速める。いいな」
「わかりました」
「そして彼等より先にフェルダウス星系に到着する。コリームア中将」
「ハッ」
名を呼ばれたコリームアが席を立つ。
「貴官はその艦隊を率いて先発せよ。そしてフェルダウスを抑えるのだ」
「わかりました」
「後のことは気にするな。あの星系に到着することだけをまず考えよ。いいな」
「了解」
「ベニサフ中将」
続いてベニサフの名が呼ばれた。彼も席を立った。
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