第二十八部第五章 優位性その八
「私としてはオムダーマンを先に倒すべきだと考えるのですが」
「オムダーマンか」
「そうです。先にオムダーマンを倒すべきです」
彼は言うのであった。
「まずはオムダーマンです」
「彼等の方が脅威か」
「そう思います」
彼は言う。
「ティムールにはシャイターン主席がいますが」
「オムダーマンにはアッディーン副大統領がいるか」
「そうです。彼の軍略はかなりのものです」
太子はそれを見抜いていた。というよりは熟知していた。彼の戦略戦術をこれまでの彼自身の戦いを見てきて知っているのである。
「我々との戦いでもそうです」
「アステロイド帯を突破したそれか」
「そうです」
それもまた言うのであった。
「そしてジェルメの戦いにおいても」
「あれもまた見事だったな」
王も当然ながらそれは知っている。ジェルメで負けたのは己の国の軍であるからだ。負けた方がそれを知っているのもまた真理であるのだ。
「まさか勝てるとは思わなかった」
「オムダーマンが」
「わしは確かに軍の最高司令官だ」
国家元首が軍の最高司令官であるならばハサン軍の最高司令官はハサン王国国家元首である国王の彼がそうである。これはまず大前提としてあることだ。
「しかしだ。残念だが軍のことは昔からな」
「それは」
「いや、これは事実だ」
自分で己の欠点を知ってはいた。
「それは認める。そのわしの言葉だが」
「あの戦いは私もまず大丈夫だと思っていました」
王に代わって太子が答えた。
「あのままで勝利は確実でした」
「太子はそう思うか」
「私だけではないかと」
そしてこうも述べた。
「ダビデブ元帥の布陣は完璧でした。先の国境の時よりも」
「あの時よりもか」
「流石と言うべきものでした」
こうまで評してみせる。実際にジェルメの戦いは連合でもマウリアでもハサン軍が勝利しオムダーマン軍は苦境に陥るとの見方が強かったのだ。それからハサンはオムダーマン軍を少なくとも自国領から排除しその軍をティムールに向けそれで彼等は国難を乗り切ると見ていたのである。しかしそれは裏切られた予想であった。今となってはそうなってしまっていた。
「あれで勝てない筈はなかったのです」
「見事な護りだったな」
「ええ」
王の言葉に頷く。
「しかしそれはならず」
「ジェルメは奪われ多くの兵が失われた」
「ジェルメはよいのです」
太子はそれはまだよしとした。
「確かに戦略的要地でありそこを失うことは我々にとっては深刻ですが」
「しかしそれ以上に」
「多くの兵を失いました。ジェルメは取り返すことができます、しかし」
「兵はそうではないな」
「そうです。今予備役に大規模な召集をかけていますが」
「アヤグーズ以西、ジェルメ以南はもう無理だな」
「それもあります」
既に敵に占領されている星系から兵を集めることは不可能である。これは言うまでもない。それができれば何の苦労もいらない話である。
「熟練兵も失っていますし」
「それもまた今後に大きく影響してくるな」
「残念なことに。兵は戻りません」
あまりにも痛い現実であった。ハサンにとっては。
「将と同じく」
「それの穴埋めも容易ではないか」
「ジェルメでの損害は大きいです」
それをまた言う。
「暫くそれを回復させることも必要でした」
「それは上手くいっているか」
「何とか」
王に対して答えた。
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