第七部第三章 狐狩りその二
「貴族!?馬鹿を言え」
その者はシニカルにそう言った。連合では貴族は存在しない。エウロパの階級社会の象徴、特権階級として批判と侮蔑の的であるのだ。連合においては貴族はエウロパの象徴であり、それ自体を忌み嫌う者も多かった。その生活に憧れる者がいてもそれはあくまで憧れであり、そうした者自身も連合の様々な文化や食事に骨の髄まで漬かっていた。
「この場合は違う」
彼はそれに対してこう言葉を返した。そして答えた。
「日本の昔の貴族だよ、彼は」
「華族か!?」
明治から戦前に存在したものである。ただ爵位を持っているだけで特権はこれといってない。あくまで飾りの存在であった。その証拠に欧州では殆ど上がらない爵位が頻繁に上がった。とりたてて特筆すべきものではなかった。
「違う、もっと昔だ」
「大名か!?」
その者は日本の長い歴史を完全に把握してはいなかった。だからこう言ったのである。
「あれは武士だろう。そうではなくて」
「では何だ」
「公家は知らないか」
「知っているぞ、一応」
「それだ。光源氏がそれだっただろう」
「うむ」
彼もそれは知っていた。だが完全に読んだことはない。あまりにも長く複雑な話だからだ。
「ああした貴族なんだよ。こう言えばわかるだろう」
「成程、確かに」
その男はこう言われてようやく納得した。だが一つ問題があった。
「光源氏というわりには浮いた話が少ないな」
「そういえばそうだな」
光源氏は名うてのプレイボーイである。側にいる女性は全て陥落させる。そうした男であった。だが八条に浮いた話がないのは誰もが知っていることである。とある週刊誌などは彼が同性愛者であると決めつけている程である。
しかし八条自身はそれを知っていてもコメントしたりはしなかった。結局彼の意中の相手は誰かでも議論があるがそれは今だにわかってはいない。いるのかどうかさえ不明であった。これについては金も一緒であった。
「金内相と八条長官だとどうかな」
「馬鹿を言え」
こうした話にはすぐに反論が来る。
「完全に水と油だぞ。しかも二人の国を見ろ」
「あっ」
彼はそれを聞いてはっとした。日本と韓国の関係は連合において何かと問題になる関係であった。と言っても韓国が日本を一方的に意識しているのである。
過去の歴史ではなかった。その真相は既にわかっている。ただ韓国人は何かと日本、そして日本人を見なければ気が済まないのだ。
「連合で最もよくわからない関係」
こう評する者もいた。とかく両国の関係は妙であった。
韓国はことあるごとに日本を批判する。経済や教育、文化の何から何までであった。だがこれはかえって他の国の人間から見れば驚嘆すべき日本への研究であった。
「何であんなことまで知っているんだ!?」
そう驚く者も多い。韓国は日本のことを非常によく知っているのだ。
そのうえ本屋には日本関係や日本の本が立ち並び日本の服を着て日本の歌手の音楽を聴き、何が何でも日本の出席する会議には出ようとする。韓国は連合においては二〇位程の国である。日本はアメリカ、中国、ロシア等と並んで連合の頂点にいると言って過言ではない。連合におけるトップ一〇はこの四国とオーストラリア、カナダ、ブラジル、トルコ、そして新興国であるケベックとコンゴロ共和国であった。ケベックはカナダにいたフランス系の者が建国した国であり王国である。建国時に大統領制か王制かで議論となり、王制となったのである。その国王はかってフランス王家であったブルボン家の流れの者であった。何とブルボン家の傍流がケベックに移住していたのだ。今の国王はルイ三十五世。芸術を愛し、健啖家として知られている。そしてごンゴロ共和国は豊かな資源と土地を持つ国である。建国してからまだ二百年程であるがその成長は著しい。黒人が多い国である。
韓国は残念ながらこれ等の国々程恵まれた立場にはない。だからこそトップになれないと言えばそれまでである。それでもかなり上の方であるが彼等の目指すものはあくまで『日本より上』なのである。
「それは幾ら何でも無理だ」
韓国人以外の誰もがこう言う。トップといっても日米中露と他の国々では差があった。そして韓国と日本の差も当然ながら同じであった。
「国力差はどれだけあるのかわかっているのか」
そうした反論に対して彼等は言う。
「絶対に乗り越えてみせる!」
と。しかしそれは誰が見ても不可能であった。
そして彼等は現況を何とかしようと動いている。だがそれはやはり困難であった。実際には差は縮まってはいない。それが彼等のジレンマとなっていた。
そうした状況を見て他の国々の者は言う。彼等が日本ばかり見ているのは日本が嫌いだからではないと。むしろ好きだからそうしているのだと。
「しかし彼等はそれにはこれからも気付かないだろう」
実際に韓国人にそれを言うと本気で怒る。韓国人が感情的なのは連合随一である。怒ると手がつけられないのだ。
それ程頑強に否定する。しかしそれでも日本を見ることは止めない。そしてアピールは常に日本向けであった。何と大統領自ら自国の観光産業のCMに出るのだ。それも日本向けに対してのみである。
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