第二十八部第三章 開拓と開発その十九
「完全に一方によっていたら偏ってしまうわ」
「はい」
伊藤のその言葉に頷く。
「その通りです」
「だからよ。もう一方と話し合って」
「そうして中央に寄っていくのですか」
「やじろべえと同じよ」
伊藤はこうも言うのだった。
「バランスが一方に偏ると」
「倒れますね」
「そういうことよ。だからこそ」
「真ん中を目指すと」
「ええ。完全というものはないのだし」
こうも述べるのだった。
「だからあえて話し合えるならば話し合って」
「そうして話を進めていく」
「あくまで理想だけれどね」
ここまで言ったところで声に苦笑いが含まれた。
「実際のところは必ずしもそうはいかないけれど」
「特に相手に問題があれば」
「何でも反対だとね。全く話にならないのよ」
そういうことであった。それは最早政治ですらない。単なるパフォーマンス、いやそれ以下である。
「時として謀略も必要だけれど」
「あくまで重要なのはそれね」
「ええ。自分の要求だけをゴリ押しするようなのもいるけれど」
「それは論外でしょう」
八条はそうした輩はすぐに気って捨てた。
「謀略も必要なのは事実ですが」
「ええ」
これは前提である。政治においては謀略もまた避けられない。昔からそうである。
「己の私利私欲のみにそれを使うのならば」
「政治家でも何でもないわね」
伊藤もはっきりと言い捨てる。
「ただのゴロツキね」
「はい」
そして八条は彼女のその言葉に頷いた。
「ですがそういった輩もいますので」
「残念ながらね」
伊藤はこう応える。
「民主政治には付き物ね。そうした政治家と言っていいのかわからない存在も」
「全くです。議論も何もしてきませんし」
「そう。相手は議論を仕掛けては来ないのよ」
そういった輩も残念ながらいる。民主政治であろうがどんな政治システムであろうが己の私利私欲の為に手段を選ばない輩はいるものなのだ。
「それが嫌なのよね」
「どんな人物でも議論をするならばそれで話すに足る相手ですか」
「私はそう考えるわ」
こうした意味において伊藤は実に率直であった。少なくとも堂々としている相手ならばいい。それが伊藤の考えであり何処か武士道的でもあると言える。
「八条君はどうかしら」
「私もですね」
八条もそれに応えて頷くのであった。電話の向こうで。
「それに関しては」
「そうね。それでいいわ」
伊藤は八条の返答ににこりと微笑む。
「君らしいし」
「有り難うございます」
伊藤のその言葉に礼を述べてきた。
「それならばこのまま」
「そう、そのままでいいわ」
伊藤もまた言う。
「君らしくあるのも大事なのだからね」
「私らしくですか」
八条はこう言われると少し微妙な顔になるのであった。顔だけでなく声にもそれが現われる。伊藤はそれもまたすぐに察したのであった。
「ただしね」
「ただし?」
「伸ばすべきところは伸ばすのよ」
こう付け加えてきた。
「そこはいいわね」
「伸ばすべきところは」
「ええ、そうよ」
そこを強調する。しかもかなり強くであった。
人気サイトランキング
小説・詩ランキング
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。