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第二十八部第三章 開拓と開発その九
「何の御用でしょうか」
「噂を聞いたのだけれど」
 まずはこう前置きする。
「イスラエルの誰かと会っていたそうね」
「何処からそれを御聞きになられました?」
 肯定の返事であった。伊藤は今の言葉を聞いてやはりと心の中で思った。
「少しね。君が会ったことまでははっきりしないわ」
「左様ですか。ならいいのですが」
「とりあえず中央政府の高官とイスラエルの誰かが接触したというのは流れているわ」
 その情報を彼に教える。
「気をつけなさいね。何処に目や耳があるのかわからないから」
「はい、それは」
 八条もその言葉に応えて頷く。
「存じているつもりです」
「それだったらいいけれど。ただ」
 ここで伊藤は話を本題に進めてきた。
「マウリアへの対策はもう考えてあるのね」
「はい、そちらは」
 八条の返答は実に明瞭なものであった。
「既に手は打ってあります」
「そう、もうなのね」
 伊藤は八条のその返答にまずは微笑んだ。
「ならいいわ」
「はい、実はですね」
「ええ」
 ここで八条はことの次第を話す。
「イスラエル政府から申し出がありまして」
「成程ね」
 これで話が繋がった。伊藤は八条の言葉を聞きながら心の中で思った。
「それで上手くいくのね」
「間違いありません」
 八条はここでも明瞭に答えてきた。彼らしいはっきりとした言葉で。
「こちらも工作員を送り込んでいますので」
「それで何をするのかしら」
 伊藤が次に問うたのはここであった。
「よかったら教えてくれるかしら」
「ワコシ議員は直接は狙いません」
 まずはこう述べてきた。
「彼は狙うにはあまりにも堅固であり清廉潔白です」
「それはもうわかっているのね」
「はい、調べた結果」
 駄目だというのだ。まず念入りに情報収集を行うことが絶対条件であるのは何も戦争だけではない。こうした政治の世界でもまた経済の世界でも同じことである。それを完全に踏襲しているという点で八条はよくわかっている人物であると言えた。もっと言えば伊藤の弟子であると言えた。
「彼に関しては無理ですので」
「それで狙うのは」
「彼の側近達です」
 伊藤はそれを聞いて心の中で会心の笑みを浮かべた。自分と同じ答えだったからだ。彼女にとってはまだ彼は生徒であった。そうした意識があるのは間違いない。
「彼等を狙います」
「暗殺で?」
「それはどうも」
 八条はそうしたことは好まない。もっと言えばスキャンダルを狙うのも本質的に好まない。そうした裏の世界に関する政治は彼の得意とするものではないのだ。
「それには及ばないかと」
「ではスキャンダルね」
「はい、その方針です」
 八条は答える。
「我々がそれを見つけ出し」
「それからはイスラエルの仕事になるのね」
「そうなります。既に見返りの話もついています」
「高くついたでしょうね」
「いえ、思ったよりは安かったです」
 本音を述べるのであった。
「実際のところは」
「それでどれ位したのかしら」
「港を一つです」
 そう伊藤に答えた。
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