第七部第二章 老将その六
連合の将兵の採用は全て志願制だが色々な門が存在する。士官学校もあれば大学で単位をとり、そこから将校になる場合もある。パイロットや陸戦部隊の専門課程に入る者もいれば下士官候補生から入る者も存在する。だがやはり一般兵士への募集が最も多く採用人数も多い。彼等は言うならば臨時雇いである。三年の任期で入隊し、任期終了の都度続けるか辞めるかする。その度に退職金ももらえる制度である。
「収入はかなりいいですよ」
「そうしたものなのか。そしてその金で何を買うつもりかな」
「花です」
彼は笑顔でそう答えた。
「花!?」
「はい。かなり特殊な花でして。私の住んでいる星にしか咲かないんです」
「どんな花なのかね」
「巨大な薔薇の様なやつでして。大きさはラフレシア位で」
「ラフレシア!?ああ、あれか」
グーダルズはそれが何なのか最初わからなかった。だがそれが連合にある巨大な花だと思い出した。サハラにはその花はないのである。
「あの花みたいなものか」
「ええ。茎とかはありますがね。花自体がかなり巨大なのです。花びらが虹色で人気があるんです」
「その花を栽培したいと。だが難しそうだな」
「そうなんです。おまけにすごく高くて。けれどとても綺麗なんですよ」
彼はにこりと笑ってそう言った。
「子供の頃から絶対にこれをいつも側で見たいと思っているんです」
「成程。それにその花で商売したら売れると」
「まあそれもあります」
その笑みがはにかんだものとなった。
「けれど本当に綺麗ですから。是非一度御覧になって下さい」
「面白そうだな」
これは彼の本音の言葉であった。花は嫌いではない。薔薇は好きな方だ。興味がある。
「では機会があったら一度見せてくれ。私の名はロスタム=グーダルズ。階級は少尉だ」
「グーダルズ少尉ですね。わかりました」
「君の花、是非見せてもらおう。いいな」
「喜んで」
彼は満面に笑みを作って答えた。
そのティアマト級巨大戦艦ブリージットは順調に地球に向かっていた。この巨大戦艦は神々や英雄の名がつけられる。
一番艦であるティアマトを筆頭としてそれぞれ神々や英雄の名を持っている。それはこの巨艦に相応しい威厳のある名前となっていた。
そして予定通り地球に辿り着いた。その巨体は地球の中央議会からも見られていた。
「相変わらず怖ろしい巨大さだな」
金髪碧眼の黒人の男がそれを見て呟いた。アメリカ大統領ヘンリー=マックリーフである。
「あれ程の巨艦は我が合衆国ですら想像しなかったものだ」
「それは我が国でも同じですぞ」
見れば彼は円卓に座っていた。その隣にいるアジア系の男がそれに合わせるようにして言った。中国大統領李金雲である。
「かって始皇帝が万里の長城を作り煬帝が大運河を作りました。しかしあれ程の巨艦を作ったという話は寡聞にして知りません」
「幾ら大きいといっても限度がありますからな」
マックリーフはそこでこう言った。
「それは貴国でも同じでしょう」
そして彼はロシア大統領アレクサンドル=グリーニスキーに話を振った。
「おや」
グリーニスキーは話を振られてその薄い唇を一瞬歪めさせた。それから口を開いた。
「それは我が国への皮肉ですかな」
ロシアは何でも巨大なものを好む傾向にある。この国で建造される車にしろ船にしろそうであった。そしてそれは邸宅や電化製品においても同じであった。それは連合においては非常によく知られている。時としてこれは大雑把だのロシア人気質だのと言われる。無論良い意味ではない。
「いえいえ」
マックリーフはそこで言葉をはぐらかしてきた。
「そう受け取られたのなら謝罪致しますが」
「謝罪は結構」
グリーニスキーはそれに対してすぐにそう返した。
「それよりもバーボンのいいものを欲しいですな」
「おやおや」
マックリーフはそれを聞いて思わず肩をすかした。
「ウォッカ専門ではなかったのですか」
「ロシア人は博愛精神の持ち主ですぞ」
グリーニスキーはここでこう言った。
「とりわけ酒には。勿論老酒も好きです」
「桂花陳酒はどうですかな」
李は笑いながらそう問うた。
「悪くないですな。ただアルコール度が低いのが難点です」
「ではテキーラはどうですかな」
同じく円卓に座る髭を生やした筋肉質の大男がここでにこやかな笑みと共にグリーニスキーに言葉をかけてきた。メキシコ大統領ファン=クーラである。
「テキーラですか」
「はい。飲まれたことはあるでしょう」
「勿論。悪くはないですな」
彼は笑いながらそう答えた。
「味は非常に素晴らしいです。ですが飲んでいると身体が冷えます」
「冷えますか」
「はい。やはりあれでも私、いやロシア人にとってはアルコールが足りないのです」
「あれでですか」
これにはクーラも絶句した。テキーラは強い酒であるから無理もないことであった。
「ウォッカと比べますと。あれをストレートで飲むのがロシア流です」
「ストレートで」
これには誰もが言葉を失った。
「少なくとも私はそうしておりますが。カクテルもいいですがそれが一番美味い」
「そういうものですか」
「はい。一度やって御覧下さい。病み付きになりますよ」
「いえ」
だが誰もそれに賛同しなかった。
ウォッカのアルコール濃度は九〇パーセントを超える。それをストレートで飲むなぞ普通では中々できるものではないのだ。何せ火を点ければ炎となるのであるから。
「誰も飲まれないのですか?是非一度飲まれてはいいのに」
「それは・・・・・・」
「遠慮させて頂きます」
その場にいた各国の首脳は皆謹んでそれを辞退した。これも当然のことであった。
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