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第二十八部第二章 情報が伝わりその二十
「御言葉ですがそれは何の制約もなく素材も豊富だからこそ言える言葉に思います」
「確かにそうかも知れません」
 八条自身もそれは認める。
「ですが。日本でも制約はありましたし」
「あったのですか」
「これは昔の話です」
 まずこう前置きをしてから述べた。
「かつては冷凍技術なぞありませんでした」
「そうでしたね。あれが発達して確立されるのは確か」
 サッバティーニ派頭の中で己の知識を辿った。そうして導き出した答えは。
「二十世紀の後半でしたね」
「そうです、それまではありませんでした」
 八条もそう答える。
「ですからそれまでの間は寿司や刺身といったものも内陸ではありませんでした」
「ふむ。そうですな」
 サッバティーニもその言葉に納得して頷く。
「どうしてもそうなってしまいますな。傷みますから」
「それでここで工夫があったのです」
「どういった工夫でしょうか」
「これは京都のお話です」
 またしても上方の話であった。八条家がそのルーツを上方に持っているせいか彼の話はどうしても上方に関するものが多いようである。
「京都は三陸に囲まれている為に海の幸が届きません」
「そうですね。昔になると」
「従って多くは干物でした」
 必然的にこうなってしまう。なお刺身であるがこれは元々は中国の料理である。水滸伝において河魚を刺身にして食べる場面がある。元々は唐代にそうして食べられはじめたのであるがこれが内陸に広まりその際腐敗した為にそこから疫病が流行った。ここから中華料理は必ず火を通すようになったと言われている。
「ですが何とかして例外を見つけようと」
「それで見つかりましたか?」
「はい、それは鱧です」
「鱧!?」
 サッバティーニは鱧と聞いて目を丸くさせた。それは彼の全く知らない魚であったからだ。少なくとも聞いたことは今まで全くなかった。
「あの、それは」
「御存知なかったですか」
「はい、どんな魚でしょうか」
 彼はその丸くなった目のまま彼に問う。
「全く想像がつきませんが」
「細長い鰻に似た魚です」
 八条はまずこう説明した。
「鰻にですか」
「ですが外見は全く異なります」
 次にこう述べる。
「顔は険しく歯が多く」
「ふむ。それで」
「小骨が非常に多いのです」
「それではかなり食べにくそうですね」
 そこまで聞いて己の考えることを素直に述べるサッバティーニであった。別に隠す必要がない場面においては彼も素直になるのである。
「随分と」
「そうですね。ある程度食べにくいのは事実です」
 八条もそれは認める。
「ですが。味はかなりのものです」
「それ程までですか」
「京都では独特の言葉があります」
 ここで京都の古い言葉を出してみせた。
「鱧祭りという言葉が」
「鱧を食べる祭りでしょうか」
「今も京都星系に祇園祭りというものがありまして」
 この時代でも祇園祭りは残っているのである。なお大阪においても天神祭りが残っている。これは祇園と全く同じことである。
「それは夏行われましたが鱧は夏の魚でして」
「その時に鱧を食べるというわけですね」
「はい、だから鱧祭りなのです」
 そういうことであった。
「京都では鱧は海から運ばれてもつ数少ない魚だったのです」
「ふむ、それで食べられたのですね」
「はい」
 またサッバティーニに対して答えた。
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