第二十八部第二章 情報が伝わりその十
「そうなります」
「そうですか」
八条は今の言葉を聞いていた。しっかりとだ。
「彼自身は、ですか」
「何も彼だけを狙う必要はないのです」
サッバティーニはこうも言う。
「何も。違いますか」
「それではですね」
八条はそれを聞いて述べるのだった。
「幹を除かずに枝を除くと」
「そういうことです」
サッバティーニは蕎麦をすすりながら述べる。話をしながらもせいろの味を楽しみ続けていた。
「これで如何でしょうか」
「それは貴方のお考えでしょうか」
八条はここで彼にそう問うた。
「それは」
「さて」
しかし彼はそれにはあえてとぼけるのであった。
「それはどうでしょうか」
「わからないと。そういうことですか」
「いえいえ、そうも言いませんが」
そこはかなり意図的にぼかすのだった。八条が何を知りたがっているのかをわかったうえで。
「ただ。申し上げることが、です」
「左様ですか」
「はい、お互いここは紳士協定としましょう」
この言葉に全てがはっきりと述べられていた。八条もこれ以上聞くつもりはなかった。それは最初からそのつもりであった。引き際を知っていたのだ。
「そういうことで。宜しいでしょうか」
「わかりました」
八条もわかっているからこそその言葉に応える。政治での話ではこうしたやり取りも多分に形式的なところがある。サッバティーニは言葉の外にあえてこの発言の主を教えていたし八条もそれを理解していた。それだけでもう充分であるということであった。
「それでですね」
「ええ」
また話が再開される。サッバティーニはまた八条に対して言ってきた。
「マウリアの強硬派ですが」
「どうされますか」
今度は強硬派であった。実に様々な呼び名がある。
「既に考えがあります」
「それは一体」
「ですから。枝です」
それをまた言ってみせてきた。
「枝を切れば。幹だけでは如何ともし難いでしょう」
「確かに」
これはわかる。木は幹だけでなるものではない。枝もあってはじめてなのだ。サッバティーニは今それを穏やかだが剣呑さを含めて言うのであった。
「それでです。今回は幹はそのままです」
「枝だけを」
「そうです。それを考えているのですが」
「わかりました。左様ですか」
「はい、そういうことです」
また八条に対して述べる。
「それでですね」
「ええ、次の段階ですね」
話の次の段階に入る。八条はそれを今ここの空気で読んでいた。
「実行者ですが」
「それは既に動いております」
サッバティーニはしれっとした感じでこう述べてきた。
「もうね」
「早いですね、それはまた」
「何、確実に仕事を果たせるならばです」
そう八条に言ってのける。あくまで平然とした顔で。
「それも当然かと」
「左様ですか」
「はい、後は結果を待つだけです」
やはりしれっとして言うのであった。
「それだけでもう。話は終わりです」
「ラコシ議員だけではたかが知れていますか」
「また述べさせて頂きますが幹だけでは大樹とはなりません」
そこをまた強調する。
「おわかりですね」
「ええ。それではですか」
「そうです。幹だけの大樹なぞ大樹ではありませんから。何とでもなります」
「それでは後は何の手も打たなくていいと」
「少なくとも次の枝が生えるまでには時間がかかります」
悠然として述べる。そこには絶対の自信があった。
「それだけ時間があれば。問題はありませんね」
「はい、充分過ぎる程です」
八条も穏やかだが確かな笑顔を浮かべて彼の言葉に頷いた。
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