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第七部第二章 老将その四
 連合は多くの国家から成り立っている。設立当初には百四十程であったがそれぞれの事情により増加し、今では三百に達する。連合においては星系は一つの国家が完全に掌握するものと定められており、新規の星系に降り立った者達がそこに新国家を興すこともある。実際にそうして独立する者もいた。 
 この際彼等が元いた国家とのトラブルが起こる場合もある。その星系が豊かであった場合は尚更だ。だがそうしたさいに仲裁するのが連合中央政府であり、その機能はとりあえずは維持されてきていた。そうした場合には旧国家に新しい星系の開拓と領有を優遇するのが常であった。やはり新国家設立にはそれなりのデメリットも存在していた。
 中には一つの星系のみの国家もある。それは連合の国家のかなりの割合になる。新国家も最初はそこからはじまり、そこでとりあえずは満足する場合もあるのだ。
 大国は星系の開拓を次々と進めていく。とりわけアメリカ、中国、ロシアといった国々は積極的である。日本は所有している星系が豊かなものばかりであるのでそれにはあまり積極的ではない。だが開拓をしていないというわけではない。
 こういった状況で連合は続いてきた。だがこの百年程は新国家の設立はなかった。やはり三百もあると自分の考えに近い国家もある。また生まれた国への愛着もある。定住するにしろ移り住むにしろそれだけ選択肢があれば悩むこともなかったのである。
 そんな中で特殊なのがやはり難民達である。彼等はその殆どがどの国家に入ることもなくあくまで独自のテリトリーを持っていた。そしてそのまま生活していた。
 それは今軍に組み入れられても変わることはなかった。彼等はその星系において生活し、訓練を受けていたのだ。
 その訓練は過酷であった。他の連合軍のそれとは比較にならなかった。だが彼等はそれに不平を言うことなく黙々と訓練を受けていた。
「今日の訓練も凄かったな」
 夕方、ようやく訓練を終えた難民達はシャワーを浴びた後食堂で自分達の訓練について話をしていた。
「あの教官の野郎思い切りやってくれやがって」
 陸戦部隊の迷彩服を着たサムディが顎をさすりながらそう呟いた。見ればそこに青い痣がある。
「折角将校になったと思ってもこれだ。容赦ってのがねえな」
 見れば階級は少尉のものである。彼は任官した時にその能力を買われ将校にされていたのだ。
「連合じゃあ将校はライフルを持たずにピストルだけだと聞いていたしな。それが普通の兵隊と全く変わらない装備だ。何か違うぜ、ここは」
「俺達がそれだけやばい仕事をやるってことだろ」
 サムディの向かいにいる顔中髭だらけの男がここでこう言った。
「俺だって今かなりしごかれてんだぜ」
「おやっさんもかい」
 彼はここでこの髭の男をこう呼んだ。
「ああ、炎龍のパイロットとしてな。ついさっきもどやされたばかりだ」
「それはまた。おやっさんでもそうかい」
「そうだよ。下手クソってな」
「おやっさんが下手なら誰が上手いんだよ」
「わからねえな。俺もかっては腕利きだったんだぜ、こう見えても。それで下手ときたもんだ」
 彼は笑いながらそう言った。彼の名はイブン=ウダイ。サムディと同じマラケシ出身でありかっては攻撃機のパイロットとして名を知られていた男である。
「これでも戦車や敵艦をかなりやっつけてきたんだがなあ」
「それは知ってるよ。見事な活躍だったよ、あれは」
 彼はエウロパとの戦いで侵攻して来る敵の地上部隊に向かいその戦車や装甲車を次々と撃破していった。その功により大尉から大佐にまでなった程である。だがそれは敗戦前のほんの仇花に過ぎなかったのだ。
 敗戦し国を追われた彼はここまで逃げ延びてきた。彼の家族と共にここまで来たのだ。
「それでも負けたら意味はねえな。こうして異国で訓練を受けるだけだ」
「そうだな」
 サムディはそれを聞いて急にしんみりとしだした。だがそれはほんの一瞬のことであった。
「そういえば」
「どうした」
 ウダイは彼が顔を上げたのを見てそれにすぐに反応した。60
「グーダルズの奴がいねえな。何処へ行ったんだ」
「あいつなら今地球に向かっているぜ」
「地球に!?」
 サムディはそれを聞いて思わず声をあげた。
「ああ。今この部隊には司令官クラスの将校がかなり少ないのは知っているな」
「おお」
 サムディはそれに答えた。連合に落ち延びてきた者にはかって将軍であったりした者がかなり少ないのだ。その他にも行政を司っていた者も少なかった。その為彼等が今いる行政はここを管轄する国がスタッフを派遣しているのが現状である。
「だからその司令官候補を探しているらしい。あいつはその中の一人に選ばれたのさ」
「それはまた意外だな」
「意外か?あいつなら選ばれるだろう」
 グーダルズの能力は二人もよく知っていた。だからウダイはそう言ったのだ。
「いや、あいつが選ばれたことが意外なんじゃない」
「じゃあ何だ?」
「俺達の中から司令官を選ぶってのがな。ほら、普通は違うだろ」
「まあな」
 こうした外人部隊や傭兵部隊は通常正規軍より一段下に見られる。その為司令官や高級将校等は正規軍から派遣され彼等はあくまで消耗品として扱われるのだ。
「それが俺達の中からってことは。やはり俺達は正式に連合軍に入っているってことだよな」
「それはまだわからねえぞ」
 彼はここでこう釘を刺した。
「ポーズだけってこともあるからな。名前だけは正規軍でも扱いは違うとかな。実際に訓練は他の奴等と全然違うだろ」
「それはそうだな」
「どのみち俺達は火事場に飛び込む為にいるのは変わらねえよ。それはよく覚えておけ」
「わかってるさ。ただ」
「ただ。何だ!?」
 ウダイはサムディの言葉をとらえて問うた。
「それでも俺達の部隊を俺達に任せてくれるってのは有り難いなって思ってな。この軍にいたくなってきたよ」
「まあな」
 それはウダイも同じであった。やはり自分達の軍は自分達で動かしたいものであるからだ。
「軍服も連合のものだしな。地位や待遇もだ」
「それだけでもよしとすべきだがそうしたことにまで気を配ってくれるとはな。ほら、何つったっけな。中央政府の国防長官」
「八条とかいったな。日本の」
「おお、あの兄ちゃんだ。いいのは顔だけじゃないようだな」
「おいおい、おやっさんはあんな優男がいいのかよ。男はやっぱり筋肉だぜ」
 彼はここで腕に力瘤を作ってみせた。
「あん!?それなら俺にだってあるぞ」
 ウダイもそれに負けずに作った。そしてそれを見せつける。
「中々すげえな、おやっさんも」
「フン、若いモンには負けねえぞ。こっちもな」
「けれど頑張り過ぎて神経痛ぶりかえさないようにな」
「そんなもんねえと言ってるだろうが。俺はまだ四十だ」
「おっとそうだった、ははは」
「年寄り扱いもいい加減にしろってんだ」
 彼等はそんな話をしながら羊のハンバーグにカレー、サラダにミルクといった夕食を楽しんでいた。グーダルズはその頃一隻のティアマト級巨大戦艦に乗り宇宙にいた。
「まさか地球に行くとはな」
 彼は窓から星の大海を眺めながらそう呟いた。そこには無数の星達が瞬いている。
「どうしました」
 それを聞いた兵士の一人が問うた。見れば水兵の服を着たまだ十代の兵士だ。グーダルズ達を迎えに来たこの艦の乗組員である。
「ああ、ちょっとな」
 彼はそれには答えず言葉を濁して誤魔化した。
「凄い艦だと思ってな」
「ははは、そうでしょう」
 その水兵はそれを聞いて大いに笑った。
「こう言っては何ですがこれ以上の艦はありませんよ。連合の誇りですから」
「誇りか」
「ええ。この前の海賊との戦いですけれどね」
「解放軍とのか」
「はい。その戦いにおいても大活躍しましたから」
 彼は上機嫌でそう語った。
「一隻も沈むことなく。どんな攻撃にもびくともしませんでしたよ」
「そうだろうな。ここまで巨大だと。それに」
「それに!?」
 水兵は彼のその言葉に突っ込んだ。
「装備も凄い。それに艦載機の数も半端じゃないな」
 彼は飛行甲板や巨砲、そして主砲を見てそう言ったのだ。
「これだけの装備があると多少の敵が相手でも心配ないな」
「そうですね。あの海賊との戦いでも一隻で一千隻の敵を殲滅させていますから」
「一千隻を!?」
「はい。移動中に側面より狙われまして。それを撃退したのですよ」
「そうなのか。一千隻を」
 サハラにおいては無視できない戦力である。特に彼のいた北方では人口や国力の関係からそうであった。連合とはここでも違うのだ。
「砲撃とミサイルで。あっという間だったそうですよ」
「あっという間か」
 彼はその言葉を聞き問い直した。流石に信じ難かった。
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