第二十七部第五章 コムの死闘その二十五
「残念なことにな」
「挽回する必要がありますな」
「必ずな」
バンダルはまた答えた。
「しかも何があってもだ」
「ではその戦力を温存しておく為にも」
「今は」
「下がる」
そういうことであった。撤退の理由はそれ以外にはない。
「第二陣も撤退に入りました」
「わかった」
バンダルは今あがった報告に応えた。
「では続いて第三陣。そして」
「我々も」
「どうやら敵は慎重に攻めているようだな」
「そうですね」
またギーヴが答えてきた。
「我々の戦いを警戒してのことでしょうか」
「ならば有り難い」
バンダルは素直にそのことに感謝した。
「おかげで余計な損害を出さずに済む」
「そうですね。しかし」
だがここで。ギーヴは顔を顰めさせた。
「それでも今の我々の損害もまた」
「馬鹿になっていないな」
バンダルも忌々しげに顔を顰めさせた。今の状況でもハサン軍の損害はかなりのものだった。撤退戦の難しさもあるがそれ以上にティムール軍の攻勢が激しかったからだ。
「そうそう簡単には返してはくれないか」
「そこはやはりシャイターン主席ですね」
「うむ。しかしそれでもだ」
バンダルの目がまた光った。
「帰らせてもらおう。今後の為に」
「はい。戦いはまた続きますので」
ギーヴも言う。
「ここは何があろうとも」
「よし、いよいよ最後だ」
第三陣の撤退が済んだのを見て彼等も動いた。
「最後に総攻撃を浴びせ。そして」
「そして」
「反転した後機雷を後部発射管から全て放って撤退だ。いいな」
「わかりました」
「ここが最後の正念場だ」
そう語るバンダルの顔に緊張が走る。
「いよいよな」
「ここで失敗すれば終わりですか」
「少なくとも我々はそうだ」
身も蓋もない言葉だがその通りであった。
「もっともそちらの方が後世の歴史に残るがな」
「名誉ある戦死としてですか」
「英雄に祭り上げられるかも知れない」
バンダルは冗談めかしていたがそれはこうでも言わないとリラックスできないからであった。極度の緊張がどういった事態を引き起こすのか彼はよくわかっていたのである。だからこそあえてこうした冗談めかした言葉を言ったのである。
「それがいいのなら別に構わないが」
「家族がいなければ」
ここで誰かが家族を出してきた。
「それで構わないのですが」
「生憎我々は」
「生きなければならない」
「はい」
そういうことであった。今ここで別に死んでも困らないという者も少なかった。人間というものは進んで死ぬべきではない、これもまた教えである。イスラムにおいても命を粗末にせよとは言っていないのである、
「家族は別の者に養われるが」
「それとこれとは別なので」
「やはりここは」
誰もが生きるつもりであった。イスラムにおいては戦争で夫を亡くした場合はすぐに別の男に嫁ぐべきとしているがこれは戦災未亡人への救助策である。そもそもイスラムにおいて妻を四人までとしたのはこれが理由なのである。
「生き残らなければ」
「ですから司令」
「わかっている。それではだ」
「ええ」
「気を抜くことなく」
彼等は言う。
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