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第七部第二章 老将その一
                 老将
 アッディーン率いるオムダーマン軍は順調に南方侵攻を進めていた。ムワッハドを降伏させた彼等はまずムワッハドに集結し、そこから新たな侵攻を計画していた。
「作戦は次の段階に移った」
 彼は各艦隊の司令及び中枢の幕僚達を集めて話をしていた。
「ムワッハドを降伏させた今我々は南方のかなりの地域をその手中に収めたことになった」
「ハッ」
 その場に居合わせている提督や幕僚達がそれに頷いた。
「だがまだ作戦は終わってはいない。進むべき場所はかなり残っている」
 彼は言葉を続ける。
「今後我等はさらに南下を続けていくことになる。そしてその最大の目標は既に決まっている」
 ここで後ろのモニターのスイッチが入れられた。そこに南方の地図が浮かび上がる。
「我が軍が次に戦うべき相手は」
 彼は指揮棒を手に地図のある部分を指差した。
「ここだ」
 そしてムワッハドに隣接するある星系をそれで指差した。そこは青く塗られていた。
「リヤド王国だ。言うまでもなくこの南方で最大の勢力を持つ国だ」
 彼の言葉は落ち着いているが強いものとなっていた。
「この国を攻略することがこの南方進出で最大の目標であることはもうわかっていることだと思う」
「はい」
 提督達も幕僚達もそれに同意する返事を返した。実際にこの国は南方で最大の国家でありその攻略は南方侵攻における最大の課題であるのだ。
 リヤド王国の歴史は古い。八百年を超える歴史を誇りその産業や資源も南方では随一である。そして地形も複雑であり兵力も南方では最も多い。
「この戦いに勝つかどうかで今回の作戦の如何が決定するのだ」
「わかっております」
「ならば話は早いな」
 アッディーンは提督達の声を聞いてそう頷いた。
「これよりリヤド王国への侵攻を開始する。参加兵力は二十五個艦隊とする、参加する艦隊はおって指示するものとする。全軍次の戦闘に備えるように!」
「ハッ!」
 その場にいた全ての者が起立した。そしてアッディーンに敬礼した。
 こうして会議は終了した。アッディーンはその足でアッバースの部屋に向かった。
「閣下」
 後ろに控えるハルダルトが声をかけてきた。
「何だ」
 彼はそれを受けて後ろを振り向いた。
「二つ程お知らせしたいことがあるのですが」
「俺にか」
「はい。宜しいでしょうか」
「ああ。秘密の話でなければな」
「わかりました。まずは連合のことです」
「連合の?」
「ええ。難民を軍に編入しているのです」
「難民をか。外人部隊や傭兵みたいなものかな」
「どうやらそのようです。既に募集を行っているそうです」
 このことは既にオムダーマンにも伝わっていた。そしてその数に彼等もいささか驚嘆していた。
「これも連合の人口故か。恐ろしいな」
「はい」
 この時代においても人口というものはその国の国力の重要な要素の一つであった。エウロパのように問題を引き起こすケースがあるのも事実であるがやはり多いとそれだけの力となるのは事実であった。三兆の人口は彼等にとっては夢の様な話であった。
「彼等はその部隊を有事に即座に動かすべき存在としていくようです」
「将に外人部隊に対する扱いそのものだな。それだけを言うと」
 アッディーンはそれを聞いてこう答えた。サハラでは外人部隊も多いのである。
「そうですね。ただ待遇等は他の将兵と変わらないようです。彼等もまた志願により入ってきておりますから」
「連合の志願制はまた徹底しているな」
「戦争というものがありませんからね。必然的にそうなるのでしょう」
「そして徴兵をしなくとも兵力は他の勢力と比べて圧倒的だからな。他にも理由はあるが」
「はい」
 アッディーンはこの時軍人の目から見て語っていた。
「そして装備もいい。連合と戦う場合には存亡をかけたものになるな」
「連合と戦うことが有り得るのでしょうか」
「可能性はゼロではない」
 彼はここでそう答えた。
「これから何があるかわからない。そうした意味ではな」
「そうですか」
「だから連合の情報は常に手に入れておきたいな。情報部にもそう要請してくれ」
「わかりました」
「話の一つは終わったな。そしてもう一つは」
「はい。マウリアのことです」
「マウリアの。何かあったのか」
「解放軍が連合に倒されたことにより連合との交易がさらに活発になったようです。そしてそれによりかなりの利益を得ているそうです」
「交易でか」
「それに伴いハサンとの間で行っていた三角貿易は減少しております。ハサンはそれを受けて連合及びマウリアとのそれぞれ個別の交易に切り換えていっているようです」
「ハサンも馬鹿ではない。それ位は考えるか」
「はい」
「ところでそのハサンだが」
 彼はここで逆に問うてきた。
「軍の動きはどうなっている」
「特に派手に動かしてはいません。エウロパ総督府との国境の兵を増強させただけです」
「そうか」
「それにこれは今までと変わりありません。やはり積極的に動くつもりはないようです」
「いつもと同じか。だがそれはかえって好都合だな」
「そうですね」
 ハルダルトはそれに頷いた。
「この作戦に専念できますから。彼等の介入があったならばここまで順調にはいかなかったでしょう」
「うむ」
「しかし油断はできないのも事実です。アジュラーン閣下もマナーマ閣下も増強した兵は次々とハサンとの国境に送っておられます」
「いざという時の為だな」
「はい。ですから我々もそれは考慮に入れなくてはならないかと」
「腰を据えてやるのもよいが、というわけだな」
「そう受け取って頂いても構いません」
 彼はここであえてこう答えた。
「先程閣下が仰った通り何が起こるかわかりませんから」
「確かにな」
 アッディーンは微笑んでそう言った。
「だが南方の地形は知っての通り複雑だ。敗れては何もならない」
「はい」
「ここは慎重にいきたい。我が軍の勝利の為にもな」
「勝利の為に」
「そういうことだ。勝利を得る方法は一つではないしな」
「わかりました」
 ハルダルトはそう答えた。そして二人はアッバースの部屋に着いた。
 そして中に入る。部屋の中央にあるテーブルに彼は座っていた。
「どうも」
 アッバースはアッディーンの姿を認めてすぐに立ち上がった。そして礼をした。
「はい」
 いつもなら制するところだが間に合わなかった。アッディーンはそれをいささか残念に思いながら彼に声をかけた。
「長官、そちらの方の会議はどうでしたか」
 そして彼に外交部の会議のことを尋ねた。
「おおよそのことは決まりました」
 彼はそう答えた。
「まずは残る各国との交渉を進めます」
「はい」
「当然リヤドにも」
「あの国にもですか」
「一応は。ただあの国は首を縦に振るとは思えませんね」
「そうでしょうね。私もそう考えて作戦を立てています」
「それはよかった。では今までと同じようにいけますね」
「はい」
 外交交渉と並行させ、従わない場合に攻め込む。南方侵攻の際のパターンであった。
「ではまず交渉をスタートさせましょう」
「私はその間に戦いの準備に取り掛かります」
「目標はリヤドですね」
「はい、何にしろあの国を抑えなくてはなりませんから」
「そうなりますか。ではあの国の周辺を抑えていきましょう。その方が確実です」
「是非お願いします」
「わかりました。ところで」
「はい」
 アッバースは表情を変えてきた。
「ティムールが何やら動いているようですよ」
「ティムールが」
「ええ。北の総督府に向けて色々とやっているようです」
「そうですか」
 彼はそれを聞いて暫く考え込んだ。
「我が国に対してではないのですね」
「はい」
「とりあえずそちらは様子見ということでいいでしょうか」
「そうですね。我々もそういう方針で進めていこうかと思っています」
「ではお願いします」
 アッディーンはそれで話を終わらせた。
「ところで」
 そして話を別の方向へ持って行った。
「そろそろ昼食の時間です。ご一緒しませんか」
「いいですね」
 アッバースはその言葉を聞いて顔を綻ばせた。
「丁度お腹がすいてきたところですし」
「では行きますか」
「ええ」
 アッバースはそう答えて席を立った。
「今日のメニューは何でしょうか」
「確かムワッハドの牛の料理だった筈ですよ」
「ああ、確か味がいいということで評判でしたね、ムワッハドの牛は」
「ええ。牛はお好きですか」
「勿論。では行きましょう。牛が私達を待っていますよ」
「面白い言い方ですね。本当に牛が待っているかも知れませんよ、そんなことを仰ると」
「それも面白いですね」
「見たら見たで皆驚くでしょうけれどね」
「ははは」
 二人はそんな話をしながら士官室に向かった。そしてそこで食事を採るのであった。
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