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第七部第一章 流浪の民その七
「軍そのものに対する考え方が根本から違います。それに状況も」
「最低限の守りだけ整えておけばよいからな、連合は」
「はい。それが何よりも大きいかと。その最低限の数だけであれですから」
 連合は外敵は存在しない。エウロパに対してはガンタース要塞群があり守りは万全である。マウリアや国境を接するハサンとは友好関係にある。だからこそ一千年の間開拓に専念していられたのである。
 だがエウロパは違う。人口問題を解決する為にサハラに侵攻しているからだ。
「だが彼等のその最低限の数だけで我々にとっては恐るべき脅威となっていることも事実だ」
「だからこそ情報部も何かと忙しい状況です」
「卿等には苦労をかけるな」
「いえ、これが仕事ですから」
「それはステッラも同じか」
「はい」
 シリアーニはそう答えた。
「義務であります故」
「そうだったな。そして私の義務はエウロパを守り繁栄させることだ」
 彼はそう言った。
「その為にはどの様な苦労も厭わなくてはならない。出来ているかどうかは疑問だが」
 彼はそれなりに評価を得ている。高慢なところがあり今一つ芸術のセンスが欠けていると批判されることもあるが総統としては悪い評価を受けてはいなかった。
「連合への備えもしておかなくてはな。卿もこれからも何かと頼むぞ」
「ハッ」
 シリアーニはここでまた敬礼した。
「お任せ下さい。と言っても私はこの件に関してはステッラからの報告を受けるだけですが」
「いや、今の情報部があるのは卿の功績だ。これからも頼むぞ」
「わかりました」
「ではこれからも頼むぞ宜しくな」
 こうしてシリアーニとの話を終えた。シリアーニは下がりラフネールは一人となった。
「さて」
 彼は自分の机のパソコンのスイッチを入れた。そしてそこにディスクを入れた。
「連合軍のことについてのデータを見るとするか。敵のことも知っておかなくてはな」
 パスワードを入れ開く。そしてデータを見はじめた。
「ふむ」
 彼はそれを見て腕を組んで考えはじめた。
「中々考えて配置されているな。隙がない」
 どの場所にもすぐに兵が向けられるような配置となっていた。補給基地等の場所も的確であった。
 彼はそれを見終わった後で電話を手にした。そして出て来た者に対して言った。
「統帥本部長を頼む」
 そう言うと切った。やがてモンサルヴァートが部屋に入って来た。
「御呼びですか、総統」
「うむ」
 入って来て敬礼したモンサルヴァートに対して答えた。
「以前より進めてもらっている本土防衛計画だが進行状況はどうかね」
「順調に進んでおります」
 彼は即答した。
「既に防衛システムは全て整いました。このオリンポスを中心に各星系の防衛体制が整いました」
「そうか」
「そして補給体制、艦隊の編成も順調です。二百個艦隊への移行も進んでおります」
「それは何よりだ。だが一つ問題がある」
「何でしょうか」
 モンサルヴァートはそう言いながらも彼が次に言う言葉はわかっていた。
「防衛計画が全て整ったとしてそれで連合との戦いに勝てるだろうか」
「総統」
 そして彼はそれに対して用意していた反論を述べた。
「勝たなければならないのではないでしょうか」
「そうなるか」
 ラフネールはそれを聞いて難しい顔をした。
「もし戦いとなったら苦しいものになるだろうな」
「はい」
 彼はそれに答えた。
「戦力差は圧倒的です。おそらく」
「うん」
 さらに難しい顔になった。
「やはりな。ここで言うまでもないことだったな」
 顎に手をやる。そして歩きながら考える。
「その連合だが新たな軍を編成しているのは聞いているな」
「それはもう」
 既にモンサルヴァートの耳にも入っていた。
「かなり強力な部隊のようだがやはり我等との戦いがあった場合は動かしてくるだろうか」
「軍の先頭に立ってくると思いますが」
「それはどうしてだ?」
「彼等は厳密には連合の市民ではありません。そうした者達をまず戦場に送ることは昔からありましたから」
「確かにな。それは昔からあった」
 正規軍以外の外人部隊や傭兵達を自分の軍の先頭に立てることは古来よりあった。自軍の正規軍の消耗を防ぐと共に不穏分子の勢力を削ぐ為だ。連合の今回の場合は前者にあたる。後者の意味合いはなかった。
 こうしたことをよくしたのはモンゴル帝国であった。彼等は占領地の民を軍の先頭に立て生きた楯としてきたのだ。非道と言えば非道なやり方だが有効であるのは事実であった。
「おそらく彼等は他の連合軍とはまた違った部隊になるでしょう」
「精鋭部隊になるかも知れないな」
「それは充分考えられます。ただでさえ兵力差があります。注意すべきかと」
「わかった」
 ラフネールはその言葉に対して頷いた。
「では二百個艦隊ではまだ足りないな。予備兵力も用意しておくか」
「それが宜しいかと。いざという時には志願兵達が期待できますが」
「うむ。それでも兵力差は覆せそうにないがな」
「今ある戦力で戦うしかないでしょうね。ですがそれでも負けるわけにはいきません」
「そうだな。いざという時は」
「どうなさるおつもりですか」
 モンサルヴァートはラフネールのその語調に辛い決断を見た。
「総督府を捨てる覚悟も必要かもな。総督府の兵を本土への救援に向かわせることもな」
「残念ですが」
 それは彼も考えていた。だがその際懸念すべきことがあった。
「総督府の市民達の安全のこともありますが」
 彼等はサハラにとっては侵略者である。侵略者に対して容赦しないのが常識である。守ってくれる軍がいなくなったなら彼等はどうなるか、それは火を見るより明らかであった。
「まずは彼等か」
「はい」
「だが火急の場合に迅速な行動が可能だろうか」
「それでも果たさなければならない問題です」
「そうだな。そうした事態も考えておこう」
「そうされる方がよいかと。それに連合は大軍です。その移動はどうしても目立ったものになります」
「つまり彼等が動いてから総督府の軍や市民を動かしても間に合うか」
「問題は彼等を収容する施設ですが。流石に二百万もの市民を収容するのは困難かと」
「廃棄してあるコロニー等はどうだろう」
「それも使用すべきですね。ですがそれだけではとても足りません」
「そうだな。他にも必要だな」
 彼はそう言いながら再び考え込んだ。
「居住性の低さから移住が進んでいない惑星への収容も考えるか。色々あるが」
「そうですね。それも必要かと思います。費用は莫大なものになりますが」
「収容施設だけでなく居住の整備もあるからな。だが市民の命にはかえられない」
「はい、その通りです」
 モンサルヴァートはその言葉に応えた。
「市民達の安全の確保をまず優先させましょう。話はそれからです」
「そうだな」
 ラフネールはここで顔を意を決したものにさせた。
「ではそちらの計画も進めておこう。これは内務省や開発省にすぐに回しておく」
「お願いします」
「連合との戦い、何としても負けるわけにはいかない。そして市民の安全も何としても守らなければならない。我々にかかっている責任は極めて重いな」
「ですがそれから逃げることはできません」
「うん。これからも宜しく頼むぞ」
「ハッ」
 モンサルヴァートはそれを受けて敬礼した。そして話は終わった。
 ラフネールは一人になった。そこでふと窓の外を見た。
「この美しい大地も空も全てエウロパのものだ」
 彼は強い声でそう呟いた。
「連合には渡しはせぬ。他の者にもな」
 表情も強いものになっていた。そして一歩前に出た。
「負けはせん。例え何があろうとな」
 彼はそのまま窓から目を離さなかった。そして強い表情のまま窓の外に見える美しい庭園を見ていた。
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