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第七部第一章 流浪の民その二
 かってシオンの地を追われたイスラエルの者達は気の遠くなる程の歳月を経て祖国を取り戻した。そしてこの宇宙の時代においても彼等はシオンの地を愛しているのだ。それは彼等も同じであった。
「サハラに戻るにはどうすればいいいか」
 彼はいつもそのことを考えていた。だがどうしたらよいかはまだわからない。結局今は働くしかなかった。そして日々の糧を得るのだ。
「おっと」
 彼はここで先程のハルドゥーンとの会話を思い出した。
「皆に言っておかないとな」
 お昼のことを話しておかなければならない。そして彼は実際にそれを皆に話した。そして他の者も皆ハルドゥーンのところに集まった。
「おう、皆来てくれたな」
「はい」
 グーダルズ達は出迎えてきたハルドゥーンに答えた。
「じゃあ中に入ってくれ。早速食べよう」
 そしてハルドゥーンは彼等を快く中に入れた。彼等はそれに従って中に入った。
 中は室内バーベキュー場であった。そこではもう肉が焼かれていた。
「バーベキューですか」
「ああ。羊のな」
 ハルドゥーンは答えた。
「うちの牧場の羊だ。どんどんやってくれ」
 彼は牧場も経営しているのである。
「はい」
「喜んで」
 彼等は喜んでそれに従った。そしてそれぞれの焼き場に着くと肉を食べはじめた。
 肉だけでなく野菜も焼かれていた。玉葱やキャベツがいい匂いを出している。
「どうだ、美味いだろう」
「はい」
 彼等はハルドゥーンの言葉に頷いた。
「こうした料理もいいですね」
「そうだろう、連合ではよくこうして食べるからな。ちょっとやってみたんだ」
「成程」
「このソースもいいですね。玉葱のソースですか」
「ああ、そうだ」
「そしてパンもありますね。中々豪勢だ」
「そうだろう、肉はたっぷりあるからな。皆思う存分食べたらいい」
「いいんですか?」
「当たり前だ。その為に用意したんだからな。それもこれもよく働いてもらう為だ」
 ハルドゥーンはにこやかに笑いながらそう言った。
「午後からまた仕事だ。頑張ろうな」
「はい」
 彼等はハルドゥーンの言葉に従い心ゆくまでそのバーベキューを楽しんだ。そして午後も働き夕刻になるとそれぞれの家に帰った。
「只今」
 グータルズは家の扉を開けた。そして家の中に入った。
「まだ誰も帰っていないのか」
 家の中は静まり返っていた。テレビの音も料理を用意する音もしない。
 彼はリビングに向かうと椅子に腰を落とした。固い木の椅子である。
 テーブルの上にあるポットを手に取った。そして茶を飲む。日本風の玄米茶である。
 玄米茶はアガデスにいた頃は名前も知らなかった。連合に来てはじめて知ったものである。最初は何かと思ったが飲んでみると中々良かった。今ではいつも飲んでいる。
 一息ついた。それからトレーニングウェアに着替えた。準備体操の後でトレーニングをはじめた。
 トレーニングといっても器械を使ったものではない。腕立て伏せや腹筋等そのままで出来るものであった。それで軽く汗を流した後でランニングに向かった。
 一時間程走ったであろうか。家に帰る時にはもう日が暮れていた。
「おかえりなさい」
 家には彼の姉が帰っていた。名をビルギースという。彼に似た細い顔に長く黒い髪を持っている。
「只今姉さん」
 グータルズは彼女に挨拶を返した。
「早かったのね、今日は」
「いつもこんな時間だよ」
「そうだったかしら」
「うん。まあ今日は走る時間が少し短かったからね。そう思えるのかな」
「そうなの。じゃあ夕食の支度はじめるわね」
「わかったよ。じゃあ僕はお風呂を用意しておくよ。今から入るし」
「お願いね」
 彼は風呂場に向かった。そして入口のボタンを押す。するとすぐに浴槽に湯が入った。
 身体を洗った後で湯舟に浸かる。身体の疲れが一気にとれていく。
「只今」
 入っていると外からまた声がした。それも一人や二人ではない。家族が次々と帰ってきているのである。
 彼の家族は多い。両親と姉の他にも弟や妹が二人ずついる。上にももう一人姉がおり一番上の兄はここに来てから結婚して今は独立している。八人兄弟の四番目というわりかし複雑な環境にいるのである。
 軍に入ったのは士官学校からだ。兄も軍人でありそれについていくような形で軍人となった。卒業してすぐに巡洋艦に航海士として配属されたが配属後一週間目で戦闘に参加することとなった。エウロパとの戦いである。なお航海士とは艦の航行にあたる士官である。かっての海の名残でこう呼ばれているのである。航宙とあらわす場合もあるにはある。
 そこでモンサルヴァート率いるエウロパ軍に敗北した。そして祖国が滅亡すると難民となり連合にまで逃れたのだ。
 それまでの路は大変なものであった。餓えの危険もあった。海賊にも怯えていた。それでも難民同士で固まり団結して乗り切った。何とか連合に辿り着くとこの星に案内された。そして今ここにいるのだ。
 風呂からあがる。するともう弟や妹達、そして両親が帰ってきてテーブルに着いていた。
「じゃあ食べるか」
「うん」
 大柄で白髪の初老の男が彼に声をかけてきた。彼の父である。
 テーブルに着く。魚の煮物であった。
「魚なんだね、今日は」
「ええ」
 ビルギースは答えた。
「鯉よ。それを中華風にやってみたの」
「ふうん」
 見れば確かにあんかけであり生姜や人参も入っている。もう湯気と香りに負けそうになる。
 だがグータルズはそれを抑えた。そして食事の前のいただきますを終えてから食べはじめた。
 食事を終えると自分の部屋に帰った。そしてパソコンのスイッチを入れる。
「メールは来ていないかな」
 何通か来ていた。どれも商品の宣伝やキャンペーンばかりであった。
 そんなものはどうでもよかった。軽く見た後で全部消した。
 だが一通それ等とは違うものがあった。募集案内であった。
「?何だこれは」
 それは軍の募集であった。どうやら難民達を対象にしたものであるらしい。
「連合軍からか」
 連合軍のことは知っている。これまでにない数と装備を持っているということは聞いている。だが今の彼にとっては関係のないことだと思っていた。 
 今の彼は軍人ではない。農業で働く一介の労働者に過ぎない。少なくとも自分ではそう思っている。そして将来は土地を買って自分も農場を経営するつもりであるのだ。
 消そうかと思った。だが心に引っ掛かるものがあり詳しく見てみた。
「待遇はかなりいいな」
 給与はかなりのものだ。そして身分もかっての所属の階級をそのまま保証するとある。住居も提供してくれる。アガデス軍とはかなり違っていた。
 これは志願制の為であった。徴兵制であったアガデスでは軍に就くことは義務であった。従って軍も彼等の待遇はそれ程考慮しなくてよかった。数は確保できるからだ。
 だが志願制だとこうはいかない。待遇がよくなければ人材が来ないのだ。そしてその確保も常に念頭に置かなければならない。そうした事情の違いがあったのだ。
「こんなことまで」
 見れば有給休暇まである。アガデスにはなかったものだ。
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