第二十七部第一章 コムへその十八
「ハサンにとってはな。またハサンでそれを理解しているのは」
「あの太子だけですね」
「またそれを決して口に出すことはできない」
彼はまた言う。
「出せばそれだけでハサンの結束が崩壊する」
「太子にとっては苦悩の連続です」
「そうだ。しかしだ」
アッディーンの目が鋭く光った。今の声と同じく。
「シャイターン主席の策略は何処までも巧妙だな」
「ただ見つからず目的を遂行するだけではありません」
「そうだ」
ハルダルトの今の言葉に頷く。
「どういった効果をもたらすかまで考えている。そこまでな」
「誠の謀略と言うべきでしょうか」
「そういうものが存在しているとすればそう言うべきだな」
謀略を好まないアッディーンにしてあまり気分のいいものではないのがこの言葉からわかる。そうしたことはやはり言葉にも出るのだった。今がそうだった。
「見事なのは見事だ」
「はい」
「それによりハサンは確実に弱体化した」
「そしてそれに付け込んで戦局を有利に進めていく」
「完全に計算してな。何処までも」
シャイターンは手段を選ばない男だがそれはあくまで目的があってのことだ。目的を確実にかつもっともリスクを少なく達成するにはどうすればいいのか。彼はそうしたことを全て踏まえて謀略を仕掛けているのである。そうした意味でも彼は完璧な謀略家であった。
「ハサンは辛いな」
「それも事実ですね」
「しかしだ」
ここでアッディーンはまた言うのだった。
「それは我々に向けられればどうなるか」
「我々にですか」
その言葉を聞いたハルダルトの目に剣呑なものを警戒する光が宿った。
「そうだ。そうなればどうなる?」
アッディーンはさらに問うた。
「その可能性は今後は」
「大いにありますね」
「諜報対策を進めて行くべきだな」
アッディーンの次の対策はそこであった。
「今後に備えて」
「そうですな。しかし」
「何だ?」
またハルダルトの言葉に目を向けた。
「いえ。今は手を結び合っていても後にはですか」
「それが戦いだ」
アッディーンはまたしてもあえて冷徹に言うのだった。今日手を握り合っていても明日にはその手で殴り合うのが戦争というものであり政治というものである。共に戦う相手がいれば手を結びそうでなければ自分達が争う。そういうことである。それだけとも言う。
「それがな」
「わかっているつもりですがやはり」
「複雑か」
「そうですね、それは否定しません」
ハルダルトも素直にそれを認める。
「同盟が消えすぐに」
「対立に変わる。めまぐるしくな」
「さて、私達はそう考えていますがハサンは」
「また違う考えだ。ハサンにしてみればそんな話は全く以って図々しいことになる」
「はい」
そういうことである。ハサンとて滅亡するつもりは毛頭ない。あくまでオムダーマンとティムールを倒しこの際サハラを統一しようとさえ考えているのである。
「だが生き残るのは一国だけだ」
「これは中国の言葉ですが」
「うむ」
そのハルダルトの言葉を聞く。
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