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第二十六部第五章 女王の決意その七
「私に仕えることを選んだのだからな。それこそが」
「いえ、それはまた違います」
「そうです」
 彼等はここでシャイターンに対して反論してきた。シャイターンは部下達に対して反論することも許している。己の意見を絶対的なものとして他人に強いるような男ではないのだ。もっとも己の考えに対して絶対的な自信は持ってはいるのだが。
「我々は閣下だからこそ」
「お仕えしているのです」
「私だからか」
「そうです」
 またシャイターンに対して言うのだった。
「閣下でなければ誰が仕えましょう」
「我々が仕えるのに相応しい御方だからこそ」
「今我等はこうして」
「そうか」
 シャイターンは彼等の言葉を受けて笑った。先程までの顔に穏やかさが宿っていた。彼はそうした笑みも浮かべることができるのだ。
「私は諸君等に感謝の言葉を述べたい」
「いえ、それは」
「そのような」
 彼等はかえって恐縮した。シャイターンの今の言葉に。
「御気遣いは無用です」
「あくまで我々の意志なのですから」
「ではまた一つ言っておこう」
 シャイターンはまた言葉を続けるのだった。
「一つ?」
「それは一体」
「私が仕えるに値しない男ならば」
 彼は言う。顔が穏やかなものからそれまでの倣岸なものになっていた。あくまで全てを見下ろしその上に立つ男の笑みであった。
「何時でも寝首をかくがいい」
「まさか」
「そのような」
「そうでなければ去ってもよい」
 こうまで言う。
「仕えるに値しない主は滅びるしかない」
「滅びるしか、ですか」
「そうだ。それが世の摂理だ」
 シャイターンの哲学であった。イスラムの世界では人が仕える存在は本来は唯一にして絶対的な神であるアッラーだけであるのだ。それは誰もがわかっている。ムスリムならば。シャイターンもまたムスリムだ。そのうえでの言葉なのだ。
「この世のな」
「左様ですが」
「では閣下」
 提督達はその言葉を受けたうえでまた言うのだった。シャイターンに対して。
「何だ?」
「閣下が閣下である限り」
「我等はここにいてよいということですな」
「それもまたアッラーの思し召しでもあるならば」
「アッラーのか」
 アッラーを深く信仰するシャイターンにとっては。心地よい名であった。
「左様です。だからこそ」
「我々は閣下と共に」
「その決意は変わりはしないか」
「閣下が閣下であるならば」
「決して」
「そうか。最早問わぬ」
 そこまで受けては最早言葉はなかった。シャイターンは彼等の心を全て受けた。そのうえでまた言葉を続けるのであった。
「決してな」
「それでは閣下」
「いざ戦場へ」
「出撃の時は先に伝えた通り」
 また言い伝える。それと共にシャイターンは立ち上がった。玉座から立ったその姿は最早帝王のそれであった。彼は既に帝王となっていたのだった。
「よいな」
「はっ」
「では」
 そこに控えている者達が全て敬礼する。こうしてシャイターンもまた己の軍を率いて戦場に向かうことになるのだった。最初の決戦の場へ。
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